〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第10回 夏を成功させたいとき~ 後攻:カワウソ祭「ウェイクアップ!ネッド(’98年)」
■1 好きですよね!全裸
後攻のカワウソ祭です!!早速夏らしさ全開になってきましたが、今回のテーマは「夏を成功させたいとき」です。夏の成功とは何なのかを考える前に、夏といえば裸。皆さん全裸はお好きでしょうか?好きですよね。とはいえ大事なところ、特に股間は他人に見せるものではありません。モザイクを入れることになり、場は盛り下がり、ひんしゅくを買い、子供は泣き出すかもしれません。
急に全裸の話を始めて申し訳ありませんが、カワウソの趣味のひとつに「股間隠し収集」があります。有名どころだと『オースティン・パワーズ:デラックス('99年)』で、全裸のマイク・マイヤーズが結構な尺を使って股間を巧みに隠しながら踊ります。アニメ『エヴァンゲリオン』第弐話でシンジの股間が二段階で隠れるシーンも、記憶にある方は多いのではないでしょうか。カワウソは昔からこうした“上手いこと股間が隠れているシーン”が大好きで、メディアを問わずあまねく股間隠しを全部見たいと思っているのです。
先日、2018年上半期の「嫌いな芸能人ランキング(日経エンタテインメント調べ)」1位にアキラ100%が選ばれるという悲しい出来事がありました。アキラ100%より平和な芸、ありますか?股間が上手に見えないんですよ。見えてたら大変ですが、見えていないので本当に安心できる。なんのモザイクも入れずに朝から放送できて、大人から子供まで楽しめるじゃないですか!
■2 全裸+お爺ちゃん+爆走+股間隠し
さて、全裸だの股間だのと連呼して大変恐縮ですが、映画、漫画、アニメ、ドラマにバラエティと、様々なメディアで登場する股間隠しの中でも随一の「お爺ちゃんの股間隠し」が輝く作品をご紹介します。
発売元:東芝デジタルフロンティア株式会社(2018年6月時点の情報です)
監督/脚本:カーク・ジョーンズ
『ウェイクアップ!ネッド('98年)』は、アイルランドの離島にある小さな村を舞台にしたストーリー。主人公のジャッキー・オシェア(イアン・バネン)とマイケル・オサリバン(デイビッド・ケリー)は、自分たちの村に住む52人の誰かが宝くじに当選したことに気づき、その人を捜索します。ところが、見つけ出した当選者のネッド・ディヴァイン(ジミー・キーオ)は、喜びのあまり自宅でクジを持ったままショック死していました。ジャッキーが見た夢のお告げをきっかけに、2人は賞金のネコババを企て、マイケルをネッドに仕立て上げます。しかし、村に訪れた宝くじ会社の調査員から、当選金額が約700万ポンドに及ぶと聞かされ、更に第三者による本人確認が必要になって事態は急変。ジャッキーとマイケルは村の住人全員に協力を求め、「みんなで賞金を公平に分けよう」と提案しますが……。
脚本・監督のカーク・ジョーンズは、過去にCMディレクターとして活躍していました。その経験からか、この作品も当初は10分程度の短編になる予定だったようです。しかし、村人たちのキャラクターが膨らみ、長編に組み直したとのこと。
主演はとても味わいのあるお爺ちゃんコンビ。ガタイが良く丸っこいジャッキーに、細身でちょっと気が弱いマイケルの掛け合いを見ていると、「キャラクターが膨らんでいった」というエピソードに深く頷けます。ティム・バートン版『チャーリーとチョコレート工場('05年)』のジョーお爺ちゃん役でもあるマイケルが、色々あって全裸でバイクに乗り、上手いこと股間を隠しながら山道を爆走します(ジャッキーもパンツ一丁で爆走します)。
■3 お年寄りの体を張った名演技が冴えわたる
こちらが問題のシーンです。いいですね~。本作はアイルランドの田舎村を描いていることもあり、雄大な自然、伝統的な建物、アイリッシュ・ミュージックが画面に花を添えています。全裸でバイクに乗らざるを得なくなる流れも非常にスムーズで、アップテンポなアイリッシュ・ミュージックに乗せて、見事に股間を隠しながら全裸のお爺ちゃんがバイクで駆け抜けるのです。本当に嬉しいですね。
おそらくスタントマンもほぼ使わず、マイケルことデイビッド・ケリー本人が裸でバイクにまたがり、足元の悪い海辺や山道を走りまくっているので、楽しいシーンながら(転びでもしたらヤバかったのでは)と心配になります。
© 1998 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
もちろん、見どころはマイケルの股間隠しだけではありません。ジャッキーによる2度のスピーチのシーンも、普通の村人のお爺ちゃんが一生懸命に語るからこそ心に響く感動的な見せ場になっています。
1度目のスピーチは、村人を集め、賞金を山分けするために口裏合わせを頼むシーン。2度目はネッドのお葬式に宝くじの調査員が現れ、咄嗟にネッドへの弔辞を目の前にいるマイケルへの弔辞に変更するシーン。長年の親友から感謝と友愛の言葉を受け取り、黙って目を潤ませるマイケルの表情もステキなんです。
ジャッキーを演じるイアン・バネンは、1960年代にアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたこともあり、お爺ちゃんになってもしみじみと上手な演技に見入ってしまいます。
村人のお年寄り役者陣が揃って強烈に訛っているのも面白いポイントで、英語のヒアリングに弱くても「これがアイルランド訛りか!」と衝撃を受けます。最初は英語に聞こえないくらいなのです。日本で例えるならば、東北弁で「んだんだ」「そうだべ」と会話している感じでしょうか。
■4 ほっこり系クライム・ムービーで笑おう
イギリスのコメディといえば、「モンティ・パイソン」のシリーズに代表されるように、とても頻繁に皮肉(アイロニー)を使います。本作も端々にニヤリとさせられるアイロニーが登場しますが、何よりもこの映画のテーマそのものを振り返ると、面白くできているなぁと感じるのです。
チャーミングなお爺ちゃんたちと、ごく普通で穏やかな暮らしを送ってきた村人。彼らの素朴さにうっかりほだされてしまいますが、そういえば“宝くじのネコババ”は立派な詐欺です。もちろん本人たちもそれと知りながら、刑務所送り覚悟で大犯罪に手を染めるわけで、これってつまり『タクシー・ドライバー('76年)』などと同様に、犯罪を描く「クライム・ムービー」にジャンル分けできるということです。こんなに心温まってていいのか?
とはいえ、もしもカワウソがこの村の一員なら、ノリノリで詐欺に加担してしまうでしょう。700万ポンドというと、公開当時の約12億円。52人に分けて、1人2300万円貰えるというなら……かなり欲しい。そうした、観賞側の小市民目線が浮かび上がる構図は、なかなかアイロニカルです。
考えてみれば、大好きな股間隠しのシーンだって、お爺ちゃんを裸で酷使するなんて不謹慎かもしれないし、犯罪を楽しく描くなんて!とか、人の死で笑わせようとするなんて!とか、真面目な視点でツッコミを入れることもできます。「滑稽」だけど「下品」ではない、「皮肉」だけど「悪口」ではない……物事の間に、そうした整合性を生み出す、あるいはアンバランスを成立させるのが映画の力なのだと思います。
映画をたくさん観ていけば、現実のどんな矛盾にも、筋の通った物語を見い出せるようになるかもしれません。安心な股間隠しシーンをお供に、そんなことに考えを巡らせてみれば、夏だってなんだって大成功できるはず。無印良品で陽気なアイリッシュ・ミュージックが流れてきたときなど、全裸で爆走するおじいちゃんを思い出していただければ幸いです。
それでは、また次回!