〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第10回 夏を成功させたいとき~ワイスピ美学の原点にして頂点~ 先攻:加藤よしき「ワイルド・スピード MEGA MAX」(´11年)
(C) 2011 Universal Studios. All Right Reserved.
Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
■1 全人類の祭りDNAを刺激する!お祭り映画の金字塔!
アイスムの末席を汚し続けて1年間。もはやサイトの方針「スマイルを届ける」という大義すら見失い、好きな映画を好き勝手に語るコーナーと化した「映画に逃げろ」ですが、そろそろ一周年を迎えます。今日まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。二年目も程よい感じでやっていければと思いますので、改めてよろしくお願いします。
さて今回のテーマですが、この季節に相応しく「夏を成功させたいとき」。こう言われては、もう取り上げるべき映画は一つしかありません。夏だ、祭りだ、ワイスピだ。そんなわけで今回ご紹介するのは、『ワイルド・スピード』シリーズ、通称“ワイスピ”でも屈指の人気作『ワイルド・スピード MEGA MAX』(’11年)です。初めに断言しますが、本作はここ十年で最高の夏祭り映画です。すなわち太鼓を打ち鳴らしながら神輿や山車が練り歩き、花火がボンボン上がって熱気と歓声が人々を狂わせる、超ポジティブな時間……そんな夏祭りの空気を完璧な形で映像化したのが本作です。
■2 ワイルドなら何でも良し!ワイスピ美学の原点にして頂点!
A)5からだけど問題なし! むしろ5から入るのがベスト!
FBI捜査官のブライアン(ポール・ウォーカー)が走行中のトラックを狙った強盗事件の捜査のため、事件の容疑者と目される天井知らずの男気を持つストリート・レーサー、ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)通称“ドム”に接近する。しかしストリートで彼らと過ごすうち、徐々に立場を超えた友情で結ばれていき……というのが全ての始まり『ワイルド・スピード』(’01年)でした。今回ご紹介する『MEGA MAX』はそんなワイスピ・シリーズの第5弾です。いきなり5から薦めるのはどうなんだと思われた方も多いでしょう。しかし、このシリーズに限って言えば、5から入るのがベストです。それは何故かと言うと、シリーズが本格的に狂ったのが5だからです。
シリーズ開始当初、この映画は極々小規模な、ロスの街中でアンちゃんたちがゴタゴタする程度の話でした。アンチャンたちが犯す犯罪もトラックを襲う小規模なもの。相手の運転手が銃を持ち出せばパニックになるなど、等身大の人間らしさがありました。それが……5は色々あった末に逮捕されたドムを逃がすシーンから始まります。ドムを乗せた囚人護送バスが走っていると、そこにブライアンらが駆る車が体当たりをしかけます。ブラインたちが乗る車は護送バスより強いので、弱いバスはグルングルン回りながら数十メートルほどブッ飛びます。こうして無事に逃げおおせたドムはブラジルのリオデジャネイロへ(バスが大回転して何故に無事だったかは劇中で明らかにされませんが、恐らくドムだからです)。銃でビビっていた人間らしさが霧散する見事なオープニングです。既にクライマックス・レベルのド派手なシーンですが、これはまだほんのジャブ程度。タイトル画面が終わると、今度はすぐさま列車強盗の大アクションを挟み、更に色々あった末に100億円強奪計画という景気が良すぎる計画がブチ上げられ、そして――あの男がやってきます。ロック様ことドゥエイン・ジョンソン演じるマッスル捜査官ホブス、この映画のもう1人の主人公です。
B)映画BMI急降下!今から君もマッスル野郎だ!
(C) 2011 Universal Studios. All Right Reserved.
1~4までワイスピはあくまで「車」の映画でした。5で決定的に変わったのは、そこに「筋肉」の要素が加わったことです。ドムを演じるヴィン・ディーゼルはマッスル系の方でしたが、ここにロック様が加わったことで映画は取り返しがつかないほどマッスル・ルートを爆走することに。ホブスとドムが殴り合いを始めれば、ごくごく当たり前のように2人は壁をブチ破り、ごくごく当たり前のように部屋が半壊します。香港の軽やかな功夫アクションとは違った、「ドつきあい」という表現がしっくり来るヘビー級の格闘シーンは暑苦しくも爽快・痛快。ちなみに7に当たる『Sky Mission』(’15年)では更にジェイソン・ステイサムまで参戦して、映画BMIは更に減少。そして第8弾『Ice Break』(’17年)では増え過ぎた筋肉の負荷のせいか、ロック様とヴィンが現場で衝突する映画肉離れが起きてしまいました。主人公と言うかジャイアンが3人いるような状態なので、仕方ないと言えば仕方ないでしょう。なお一連の現場の混乱を受けての隔離措置なのか、ロック様とステイサムを主演にしたワイスピ外伝『Hobbs and Shaw』(19年公開予定)の制作が決定しています。まだ話し合いの段階らしいですが、「ホブスは5人兄弟」と言った『おそ松くん』もビックリの情報が飛び交っており、どうなっていくかは正直よく分かりません。
話が逸れましたが、とにかくこの映画の筋肉量はハンパじゃありません。あまりにも筋骨隆々の人ばかり出てくるので、多くの人は見終わった後は己の腕の細さにビックリすることでしょう。前回ご紹介した『アジョシ』(’10年)は認知が歪むほどのイケメン映画でしたが、こちらは認知が歪むほどのマッスル映画です。
C)大都市壊滅!爆走鉄塊だんじり祭りinリオデジャネイロ!
そんなわけでマッスル具合も凄まじい本作ですが、本作が今なお色あせない伝説の映画となっているのは、クライマックスのリオデジャネイロ大破壊シーンです。例によって色々あった末に100億円強奪計画は「巨大金庫を2台の車で引っ張って金庫ごと持ち去る」という小学生以下の形で実行されます。どう考えてもあり得ない作戦ですが、そこは映画の都ハリウッド。このデタラメな作戦を完璧に映像化しています。すなわち2台の車がワイヤーで繋いだ金庫を引きずりながら、リオの街で警察とカーチェイスをする。しかも100億円が入った金庫ですから、大きくて重い。ほとんどコンテナと言っていい物を車2台が全速力で引っ張るわけで、もちろんバランスが取れず金庫はあっちこっちに激突し、リオの街が大混乱に陥ります。その様子は殆ど怪獣映画と言っていいでしょう。この「ありえない光景を映像化する」というコンセプトは、「車」「筋肉」と並んでワイスピの名物となりました。後のシリーズでは車vs戦車、vs高層ビル、vs潜水艦など、カーチェイスと言っていいのか分からない光景が相次ぐことになります。
しかし、このリオ大破壊はありえない光景でありながら、何処か懐かしさを覚えます。このメチャクチャなシーンは私たち日本人の心にある光景、岸和田だんじり祭りを想起させるのです。爆走する改造車に引っ張られ、街中を暴れ回る巨大金庫は、さながら山車の如し。本作は100億円以上かかった劇場版リオデジャネイロだんじり祭りなのです。その光景は我々日本人に刻まれたお祭りDNAが活性化し、代謝を良くしたり、日ごろのストレスをブッ飛ばすなどの効果があるはずです。
■3 2018年、夏。部屋で過ごす俺には祭りが足りない
今、日本には祭りが足りません。私は出身が九州なのですが、住んでいたのが限界集落だったせいで近所のお祭りが次々と中止になっていきました(東京に来て久しぶりに神輿や盆踊りを見ました)。大昔からお祭りは我々人類の生活の一部です。思い切り騒いで日ごろのストレスをブッ飛ばし、そしてまた日常へと戻っていく。お祭りは生きていくのに必要な場です。特に暑いとイライラしてストレス過多になりがちですから、積極的にお祭りに参加して行くべきでしょう。とは言え夏フェスや花火大会などで外に出ると暑くてしんどいのも事実。熱中症の危険もありますし、クーラーが効いた部屋でコーラ片手に映画を観るのが一番です。そんなときノリのいい陽気な音楽と「車」「筋肉」が満載のリオだんじり祭りを堪能できる『ワイルド・スピード MEGA MAX』は最高の一本でしょう。これさえあれば君も夏バテ知らず、夏に勝ったも同然。今年の夏は、きっと最高の夏になることでしょう。