〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第9回 雨の季節に観たい一本~良い男は水浸しにしろ!~ 先攻:加藤よしき「アジョシ(’10年)」
■1 イケメンは水につけろ!
一般的に、イケメンは水につけると更にイケメンになると言われています。そろそろ梅雨にさしかかり、なんとも憂鬱な季節です。雨のせいで外出もままならない。窓の外をパラつく雨を苦々しく見つめる日も多いでしょう。しかし、そんな雨だって実は大切な役割があるのです。それこそがイケメン水びたし映画というジャンルです。そんなジャンルあるのかよと思われたでしょう。また、最初に書いたイケメンは水につけると更にイケメンになる説も信ぴょう性に欠くと思われたかもしれません。しかし、ちょっと思い出してください。たとえば、この連載で取り上げた『クローズZERO』(’07年)では、小栗旬や山田孝之などが水につけられていました。不朽の名作『七人の侍』(’54年)や、最近劇場で予告が流れている『虹色デイズ』(’18年)も、主要な男性キャラが水につけられているという点は共通しています。また映画の都ハリウッドに目を向ければ、今の30~40代にとってのハリウッド映画のイケメンさんたち、キアヌ・リーヴスは『ハート・ブルー』(’91年)で、ブラッド・ピットは『セブン』(’95年)、レオナルド・ディカプリオは『タイタニック』(’97年)で嫌と言うほど水につけられ、アメリカン・ハンサムの代名詞ことトム・クルーズに至っては、御年55歳にして毎年のように水につけられています。そういえば『バーフバリ 伝説誕生』(’15年)も滝を登っていました。日本、ハリウッド、インド、世界中でイケメンが水につけられている。こういった事実から、最初の一文は正しいと断言できます。そして今回のテーマは『雨』。そうなれば、私が知る限り一番のイケメン水びたし映画を語るのが筋でしょう。となると、これは一つしかありません。韓国の顔面世界遺産こと、ウォンビンが主演を務めた『アジョシ』(’10年)です。
■2 直視できるか!?イケメン映画の決定版!
発売日 2012/2/2 ~DVD&Blu-ray発売中
価格 DVD:3,900円 (税抜) Blu-ray:4,800円 (税抜)
発売元 株式会社ハピネット
販売元 株式会社ハピネット
©2010 CJ ENTERTAINMENT INC.& UNITED PICTURES,ALL RIGHTS RESERVED
A)カッコいいは正義!映画を捻じ伏せたウォンビンの魅力!
荒んだ生活を送る少女ソミ(キム・セロ)と、質屋を営むテシク(ウォンビン)。孤独な日々を送る2人は、いつしか知り合い、ゆるやかに互いの心を開いていく。そんなある日、ひょんなことからソミが極悪犯罪組織に拉致されてしまう。しかし、実はテシクは常人なら見ただけで失神する過酷な訓練を耐え抜き、ホワイトハウスからもマークされる元諜報機関所属の最強暗殺者だった……。粗筋だけ書くと定番中の定番ですが、本作が特異なのは主演がウォンビンである点です。百聞は一見に如かずと言いますが、画像を見て貰えれば分かるように、ウォンビンは恐ろしくイケメンです。抜群のスタイルに、若干の幼さと哀しみを帯びた顔面。“いるだけで画になる男”と言っていいでしょう。この男を主演に起用したことで、本作は特別な一本になりました。
監督は当初テシク役にビートたけしのような中年男性を考えていたそうです。つまり、どこにでもいそうな人が、実はメチャクチャ強くて、カッコよく悪を倒す、という映画を想定していたのでしょう。実際、本作のプロットはそうなっています。ところが、ウォンビンになったせいで、どう見ても普通じゃないカッコいい人が、見た目通りメチャクチャ強くて、カッコよく悪を倒す映画になってしまいました。つまり当初の狙いとウォンビンの起用は真逆であって、ある意味ではミスキャスト。映画はこうした大きな矛盾を抱えていますが、とにかくウォンビンがカッコいいから韓国で大ヒットしました。そりゃカッコいい人がカッコいいことをやったら、カッコいいに決まっています。同年の興行成績1位となり、ウォンビンも韓国のアカデミー賞の大鐘賞で主演男優賞を獲得しました。しかし、真に恐るべきはこういった数字や賞ではなく、公開当時に韓国で語られた噂話です。曰く、「デートで『アジョシ』を観に行ってはいけない。映画が終わったあと、隣の彼氏がタコに見えるから」言わば認知が歪むイケメン。ちょっとしたクトゥルフ神話です。また公開当時にYouTubeを漁っていたら、中高生男子がウォンビンの真似をしている動画も幾つか確認しました。一目見れば、男も女も冷静ではいられない。それが『アジョシ』のウォンビンなのです。
B)怒涛のアクション!伝説となったナイフ・アクション!
では、具体的に何処がどうカッコいいのかと言いますと……何せ存在しているだけでカッコいい人なので、基本的に出ている場面は全部カッコいいです。普通にカッコいいシーンと特にカッコいいシーンしか存在しません。チャック・ノリスのジョークみたいですが。
とはいえ、やはり映画は映画ですので、もちろんクライマックスが一番盛り上がるようになっています。本作の最後を飾るのは、ウォンビンVS犯罪組織のチンピラ軍団戦、そして凄腕の殺し屋戦。ここでウォンビンは拳銃、ナイフ、そして拳を使って、チンピラ軍団を秒殺します。一連の対決シーンは、2018年の現在でも映画におけるナイフ・アクションの金字塔であり、映画のナイフ・アクションを語る上で避けて通れません。しかもアクション・シーンとしての完成度もさることながら、ここに至るまでの物語(主に悪役に対して「こんなクズどもは、悲惨な目に遭わせないとダメだ!」という怒りのボルテージを高めるドラマ)が完璧なのも大きい。感情が爆発する瞬間に、最高のアクションが始まるので、このシーンでは必ずや貴方も拳を握り、「いけーっ!ウォンビンーっ!」と声援を送ることでしょう。
C)あなたはこんなスタイリッシュに負けられますか?
さて……。映画の紹介に入ってからテーマである「雨」が一切出てきませんでしたが、心配いりません。この映画にはちゃんと雨のシーンがあり、ウォンビンは多くのイケメンたちと同じく、水につけられます。そのシーンは、ある意味で本作のもう一つのクライマックス。劇中、ウォンビンは色々あって陰謀に嵌められ、悪者たちに捕まってしまいます。そして文字通り踏んだり蹴ったりの目にあわされた挙句、雨が降る中、ゴルフ場のネットへ放り投げられるのです。完全なる敗北シーンであり、ウォンビン演じるテシクの絶望や無力感を強調するシーン……のはずが、ウォンビンがあまりにもカッコいいため、負けてもなおカッコいいのです。監督も分かっているらしく、投げ出されたウォンビンと何もない空を対比させ、まるで天使が堕天するかのような画を作りつつ、地に落ちて濡れた前髪をなびかせながら苦悶する表情を見せると言った、絶妙なテクニックでイケメン度合いをブーストさせています。ちなみに本作の監督は、後年インタビューで「あの映画は宣伝が大変でした。だってウォンビンが常に横に立っているんですよ。どういう気持ちになるか分かるでしょう」といった旨の、苦しい胸の内を激白していました。そんな監督の「この人、めちゃくちゃカッコいいな……」という気持ちが伝わってくるような、まさにイケメン水びたし映画の歴史的名シーンと言えるでしょう。ちなみに余談ですが、知人がこのシーンを見たときイケメン過剰摂取で胸ヤケがして、一時停止せざるを得なかったとも言っていました。
■3 どうせ雨だ!引きこもってカッコいいもん見ようぜ!
『アジョシ』を未見の方で、ここまで読まれた人の多くは「おいおい、こんなに“カッコいい”のハードルを上げて大丈夫かよ?」と思われたことでしょう。たしかに「傑作!」「最高!」と言われたものが、実際に見てみると大したことなかった、というのはよくある話です。私自身もそういうパターンには何度も遭遇していますが、こと『アジョシ』のウォンビンのイケメン度合いに関してだけは、大丈夫であると断言できます(記事を書くにあたって先日も見直したのですが、相変わらず爆笑するくらいカッコよかったです)。
憂鬱な雨だって、今も何処かで美しい人を更に美しくしている。そう考えると、雨が少しだけ好きになる。『アジョシ』は過去のイケメン水びたし映画と同じく、水とイケメンの相性の良さ、そして雨の魅力を教えてくれる映画であると言えましょう。