サラリーマンのオレが諦めた夢の続きを見てみたくてアーティストにインタビューをしてみた 第5回 ~『ポニーのヒサミツ』カントリー&ポップス~

2018/05/18 UPDATE

アイスム読者のみなさん、こんにちはThe Greatest Showmen a.k.a MENSANSです。
このアカウント名も飽きてきたのでネクストなオプションを募集しています。

さて、GW中にみた映画の予告編で、「才能というのものがあるとすれば、それは”強くこれが好きだと思える気持ち”のことなんじゃないか」というセリフを聴きました。本当にそうだなと思います。

幼いころ、僕は引きこもってゲームばかりをしていました。両親は、呆れながらもそんな僕を絵画教室、ピアノ教室、サッカー、水泳等、たくさんのスクールへ連れていってその怠惰なライフスタイルを矯正しようとしてくれました。

手先の器用さだけは人並み以上だったので、要領をつかんでくるとそれなりに楽しめるようになるのですが、どの習い事も長続きしないのです。自分よりも「それが好きなんだな」と感じる友達に出会ってしまったが最後、急速に習い事に対する情熱は冷めて行き、通わなくなってやめてしまう。
その繰り返しでした。

三つ子の魂百までとはよくいったもので、高校生活のほぼすべてをかけたバンド活動も、大学で出会った友人や先輩たちの音楽に対する情熱に触れたことで、自分の中の情熱は少しずつ冷めていきました。

さて、本当に才能が「強くこれが好きだと思える気持ち」なのであれば、すべてを等しく好きであり、すべてを等しく好きではない僕にはいったいなんの才能が残されていたのでしょう?
僕は何を好きになればよかったのか?何であれば僕は誰よりも好きになれるのか?

そんな悶々とした自分へのフラストレーションをみんなはどう乗り越えて、そして今を生きているのか。

表現で生きていくことを諦めてしまった一介のサラリーマンである僕が身の回りのアーティストに突撃するインタビュー記事第5回目。今回は大学時代、学部もサークルも一緒なうえに司法試験予備校も一緒に通った友人。さらには大学時代同じバンドのメンバーとして活動していた戦友。ポニーのヒサミツくんに話を聞いてみました。

1.感動(?)の再会と暗黒の大学院生時代

久しぶりですね。大学卒業してから8年くらい?どうでしたか。

え、卒業してから会話がなかったってこと!?まぁ学生の頃も2人きりで話すことってそんなになかったもんね。バンドが解散したのっていつだっけ?

えっ解散だったの!?無期限活動休止だと思ってた……最後のライブが2009年かな?

正直あんまり記憶がない…大学院に進学してからはしばらく暗黒期を過ごしていたから。周りにいる院生と比べて圧倒的に勉強が好きじゃないことに気づいてしまって、それでも単位をとるためにはひたすら勉強しなくちゃいけなくて、本当に辛い思い出しかないな……。まあ大学院で勉強したことが今の仕事につながっているから、辛い思いをした意味はあったのかもしれないけど。

進学したのはどういう経緯からなんだっけ?

当時はもう少しちゃんと勉強したいと思っていたけど、今考えると要は逃げというか時間稼ぎだったのかもね。就活ができる気がしなかったんだと思うよ。完全にモラトリアム。音楽以外やってなかった4年間だったし、世の中にでる準備をしていなくて、自分の働いている姿を想像ができなかった。でもそれも「まだだな」って勝手に思い込んでいただけかもしれないし、きちんと考えた結論ではなかったと思う。

なるほどね。当時ありあまる時間で何を考えていたの?

何考えてたんだろうね。音楽のことも今ほど真剣に考えてなかった気がするし、何も考えてなかったんじゃないかな。しょうもない人間だったんだよ。

バンドはわりと真剣にやってるのかなって思ってたけどな。

当時の自分の中ではやってたけど。明確なビジョンがあったわけではないし、宅録してそれをバンドでやってくらいの話で、音楽活動をしているというには怠惰だったと思うよ。

2.ポニーのヒサミツそのルーツ

最初に自分が音楽のことを好きだなって認識したのってどれくらいのタイミング?

難しいな。ある?明確にそういうの。

父親の車の中で聴いてたB’zのLOVE PHANTOM。

(笑)。良い曲だったよね。僕もX-ファイル観てたから聴いてたな、X-ファイルのEDであれが流れるの今考えるとシュールだよね。僕もはじめて買ったCDはB’zで小学校高学年くらいから2年ほどハマったんだけど、だんだん心が離れていってしまった。最後はultra soulでトドメを刺されて「あっもう無理です」って。

(笑)

印象に残ってるのは両親が持っていたビートルズやカーペンターズのレコードかなあ。ビートルズを小さい頃から聴ける環境にあったのは音楽をやるうえで大きかった思う。

幼少期にB’zを聴いた子ってポール・ギルバート先生とかスティーブ・ヴァイ先生に憧れて髪伸ばし始めるじゃない?ヒサミツ君はそうならなくてすんだんだね。


幸いだったよね(笑)。ギタリストとしての熱心さがあんま無かったのが大きかったのかもしれない。ギターを弾くのは好きだったけど、速弾きとかじゃなくてどっちかっていうとコードとかメロディに興味を持っていたから。


中学・高校の頃からオリジナルバンドやってたんだっけ?

中学の頃は曲は作ってたけど誰に披露するわけでもなく、テープにとったりするくらいだったな。本格的には高校かなぁ。

当時はどういうモチベーションで音楽やってたの?

モチベーションとかいらないんじゃないかなと思ってたけどどうなんだろ?

モテたいとかなかったの?

あまりなかったなあ。男子校だしさ。

文化祭に来た女の子をハベらすとかいろいろあるじゃないって思ってたけど、じゃあ、普通に好きでやってたんだね。いやすごいよ。そんな純粋なモチベーションでバンドやってる人がいるっていまだに信じられないもん。そんな中、大学で始めたstudent a(ヒサミツ氏とMENSANSがやっていたバンド)はどうでした?

やっぱり面白かった。こういうの自由にできるメンバーが集まるから大学はいいなって思った。

3.student aというバンドのこと

student aはどういうモチベーションでやってたの?今だから言える本当はここまでいけたんじゃないかみたいなのないの?

いやーいけなかったと思う。あのね、全然いけなかったと思う。

(笑)あ、そう(笑)

うん。もうちょっと時期が遅ければわかんないけど。あの頃にあれやってても売れなかったと思うし、しかも下手だったし。観客への聴かせ方もわかってなかった。何が流行るかなんてわかんないけど、流行らせようという工夫が圧倒的に足りなかった。

そうね。ひとりよがりだったかもね。流行らせようという工夫は確かに足りなかったけど、なんか今売れてるバントの中で、当時俺らがやってた事と近いことやってるバンドいたりしない?

そうそう。最後の数年ぐらいでやってたことは少し今にも通じる気はする……

かなり面白かったよね。

そうそう。けどそれはもう、たらればの話になりますね(笑)

まあーそうですね。ヒサミツ君は売れようとはしてたの?あのバンドで。

そこを他人任せにしちゃったからね。自分は曲を作るのが役割、みたいな感じで。当時の一番良くなかった所だと思うんだけど、良い曲ができれば売れなくてもいいしみたいな変なこだわりを持ってた気がする。

そうだね。

結果として売れなくてもいいと思うんだけど、人に届けようとする努力ってのは絶対しなきゃだめでしょっていうのはソロでやるようになってからすごく感じる。今はその上で、そんなに売れてないわけだけど(笑)。

(笑)巷は同じような曲がいっぱい売れてるよね。

そうだね。流行っているような曲じゃなくても、良いものはちゃんと届いて欲しいと思ってるけど、やっぱりそんなには売れねえんだなあと思った。

良いものっていうのはどこで判断しているの?

僕は古い音楽が好きだから、古い音楽をきちんと聴いていて、それをきちんと消化して、自分のアウトプットとして出せる人っていう基準かな。良いものというか僕が好きなものってことだけど。

文脈がちゃんとある人ってことかな?

そうそう。もうこの時代音楽にどんどんアクセスしやすくなってるし、何にも影響されていない新しい音楽を出せる人なんて今はほとんどないと思うし、曲を作ろうと思ったら絶対に受けて来た影響が出るわけだから、それを素直に受け入れた方が良いと思う。別に新しいことを無理にやらなくてもいいんだよ!っていうのは当時の僕らにも今言いたい。何故か躍起になってたからね。

そうだよねえ。苦しんでたよね。

4.音楽を好きになれなかったバンドマンについて思うこと

ポニーのヒサミツの活動で伝えたいことはあるの?

自分が聴いてきた音楽はこんなに素晴らしいんだぞっていうことかなぁ。SNSでも自分が聴いてよかったものを紹介しているし、自分の曲を聴いてくれた人が自分の聴いたものを辿ってくれたら1番嬉しい。

なるほど。当時student aやりながらオレは伝えたいことが特にないんだなって悩んでたんだけど、そういうフラストレーションは抱えなかったの?

……考えたことないかも。

そっか(笑)。大学でヒサミツくんとジョブヒロシくん(student aのギター、現在ポニーのヒサミツのサポートメンバー)に関わる中で俺はそもそも音楽そのものをそこまで好きじゃないんじゃないかって思ってしまって、そこでかなり挫折した記憶があるんだよね。俺はこう見えて結構負けず嫌いだから、1番になれないことに対して頑張れなくなってしまうんだよね(笑)。

そんな感じはしたし、実際そうなのかもしれないね。

だから俺がバンドについて真剣に考えたとしても、それはたぶん音楽的なベクトルから発生したものではないんだよね。バンドが知名度を得ていくとか、どういう風にバンドとして見せますかとかマーケティングとかブランディングみたいな意味合いでの頑張りはできたと思う。ただ、それは果たしてバンドでやるべき話なのかっていう葛藤がずっとあって(笑)。

そういうのはあったかもね。逆に当時はそれを僕は持ってなかったんだよね。今考えるとその視点はすごく大事だったなとは思う。良い曲作って演奏すりゃいいじゃん!みたいなノリだったんだよね、当時の僕は。

本来そうあるべきなんだと思うけどね、バンドマンは。

5.これからやっていきたいことについて

今後の活動の方針はあるのかしら?

明確にはないね。

(笑)好きなことを続けると。

そうそう。そのためにやっているだけだから。作りたいアルバムのコンセプトがいくつかあるからそれを世に出せるように頑張ります。

これからハチャメチャに売れた時に活動の方向性が変わることはありえる?

ないと思う。さすがに今の仕事が出来なくなったとかの事情があれば違うかもしれないけど今のところはないかなぁ。どうしても音楽だけで食べていくって想像が出来ないんだよね。

謙虚だよね。人生の到達点みたいなのってなんかあるの?ここまでやったら俺はまあいいかなみたいな。

なんだろう難しいな(笑)そんなのある?

俺は最近すごいそればかり考えていて、30歳って一度、限界を迎えるじゃないですか。体力的にも自分の実力も相対的にある程度分かってきて、オレはもうマーク・ザッカーバーグにはなれねえんだろうなみたいな。

そうだね。それは分かる。でも元々僕は大それたことを考えられない人だからなぁ。自分の曲が細野晴臣さんのラジオで流してもらえるとか、そういう自分の想像を超えるような反応が最近は少しずつでもあったりするので、そういうのはジジイになってから「おじいちゃんはな…」って孫に言えるかもなって思ってる(笑)。それを積み重ねていくくらいしかないんじゃないかな。音楽はいつまでもやっていきたいし、そのためにどうするかっていう話じゃないかな。

へえ〜。好きなんだね、音楽。すごい、すごいよ。

いやいや。

俺とバンドをやってたのはなんだったんだろうな。

(笑)

6.MENSANSについてどう思う?

当時のオレはヒサミツ君からどう見えてたんだろう?不思議な人間だったんじゃない?

正直言うとそうだね。自分とは性格とかも全然違う人だなって思っていたし、どういうスタンスでバンドやってんだろうっていうとこが見えづらかったし、なんかどっちかっていうともう、なんだろ。言い方が難しいな(笑)

いやいいよ言ってくれて。

サークルがしたくて、色んな事ができる選択肢の中で音楽を選んだんだろうなあっていう印象だったかも。

多分正しいと思う。そうだったんじゃないかな。仕事でもそうで、なんか割と今そういうスタンスでやってるから限界を迎えている感じがする。万事において「オレ自身はどうしたいんだよ」みたいな所で躓く。

今いるとこじゃなくても別にいいみたいな感じになるんだろうね。多分どこいってもそれなりにうまくやれるだろうし。

そうそう。そう。突き抜けられないの。組織の中の適正なポジションみたいなのを調査するなんかアンケートみたいなのあるんだけど、俺のステータスって調和性みたいな方向にすごく偏ってるんだよね。良くも悪くも我を通すということをしないらしい。自分がない。

なるほどね。どこでも馴染めるけど色が出ないんだね。逆に言うとそれが向いてんじゃないの?

でもさ、それってなんなの?と思うんだよね(笑)

すごく大事だよ!馴染めなくて困ってる人はいくらでもいんだから。どこでも生きていけるじゃん。

生きていくのはすごく得意だね。でもそれって生きてるだけじゃね?問題…にぶつかってしまう(笑)。自分の色が出せない人間に人ってついていかないじゃないですか。だからどこまでいってもNo.2って感じで。

それはそうかもしんない。アイデンティティみたいな、軸みたいなのが欲しいってこと?

そうだね。これを譲ると自分が自分ではなくなってしまうってラインが俺にはない。どこに行っても俺は多分、柔軟に適応してしまう。

なるほどね。羨ましくもあるけどねえ。それが欲しい人がいくらでもいると思うんだけどね。自分がないからって卑下する必要はないと思うんだけど。変な話、君はずっと自分を探し続けたい人なんじゃないかな。音楽もそうだったじゃない。色々試してやろうとしてたし。なんか最近面白いかもみたいなものはないの?

頑張ってる人が報われてない状況があんまり好きじゃなくて、ワーキングマザーとかシングルマザーとか、あるいはハンディキャップで働きたいのに働けない人とか、そういうものをなんとかしてえなっていう方向に自分のベクトルが向いていることはわかってる。ただ、じゃあ今やってること全部捨てて、そこにあらゆる自分の余力をつぎ込めるかというと、体力も気力もないから中途半端だなぁって。そこに疑問を持ってるってことはほんとうにやりたいことはこれなのかな?みたいに戻ってきてしまう。
その折り合いの付け方が未だにわからない。ずーっと悶々と抱えている。

満足感を得るためのハードルが高いのかもしれないね。他の人だったらもう「あー俺これ好きだ。充実してる!」みたいになれる所でなれてないのかもしれない。遅漏ですよね遅漏。

最悪だ(笑)

なかなか満足できない。逆に一つを極めなくても色んなことをある程度の水準でやれてしまう人なのかもしれないし。

そうした先になんかあるのかなぁ。

それはわかんないわ。別に1個に限定してやったってその先に何かあるのかわからない訳だし。世の中のためにはなっていると思うけどね。

世の中を助けてはいるんだろうけど、変えてないじゃん。変えたくない(笑)?

全然そういう気持ちないな。

(笑)

そこよ。

なるほどね、なるほどね。

僕はすぐ諦めちゃうから。身の程を知るみたいな言葉があるわけじゃないですか。僕は自分の中での限界も見えるし。いや難しい。なんて言ったらいいんだろう。

難しいよね。

未だに僕が新しい音楽を世の中に出したい!とか意気込んでるんだったらまた違っただろうけど。でも、自分が影響を受けたものを消化して、自分なりに曲を作って出して、てことも簡単なことではないなって思っているし、その中で良い曲ができて届けられたらそれは幸せだと思うし。

やっぱまだ俺はやりたいことがボヤっとしてんだろうな。どこで見つければよかったんだろう。

なんか見つかるといいよね。わかんないけど。君がやりたいこと見つけたって簡単に言いきれる人だったら誰もが羨む人生だったと思うんだけどね。それなりにそつなくこなせるし、普通にすごいことだよ。出木杉くんみたいなもんじゃん。

(笑)だけど全部が中途半端になってしまう。

だからそういう視点になっちゃうのが不幸だったみたいな。本人はそこで満足ができないみたいな。

ものの見方か。

そう。でもそうだからしょうがないよ。見つけるしかないよね。それか諦めるか(笑)

そうだよねぇ。

6.自分の耳で聴いたものを信じろ!

今の若者たちに伝えたいことととかある?ハタチ。大体20、21歳ぐらいに。

そこまで年が離れているともはや別の生き物って感じだよね、、、恐れ多くて、特に無いかな。


(笑)


自分の耳と自分の判断を大事にしてきちんと音楽を聴いた方がいいよってことくらいかな?


なるほど。


なんでもそうだけど、好きな人が好きって言ってるから好きとかじゃなくて。周りが何を言っていようと良くないと感じたものは良くないし良いと感じたものは良いんだよって。それをみんながやらないと音楽もそうだけど、色々とつまらなくなっていってしまう気がして。


なるほど。今日はありがとうございました。

撮影/mao nakazawa




ポニーのヒサミツ

・シャムキャッツの夏目知幸率いる「夏目知幸とポテトたち」のメンバー等で活動していた前田卓朗による独りユニット
・2011年にCDR作品『分相応』をリリース、その後、自主レーベルから発売した『休日のレコード』で、その独自のキッチュでモンドなカントリーテイスト溢れる作風が注目を浴び、2014年には本秀康主宰の雷音レコードの第3弾として『休日』を7インチで発売
・2016年にはカクバリズムから7インチEP『羊を盗め』を発売し、同年末にリリースされたムーンライダーズ・トリビュートアルバムにも参加
・2018年1月、雷音レコードより7インチシングル「そらまめのうた」、なりすコンパクトディスクより、2ndアルバム『The Peanut Vendors』をリリース

投稿者名

MENSANS

大手外資コンサルティング企業に勤める32歳。一児の父。
『元・激務界の貴公子』という異名を持つ。
強靭な体力と精神力を誇るが、アルコールからの誘惑にはめっぽう弱い。
論理的な風を装うがその実、好きなマンガは「るろうに剣心」「幽遊白書」「ジョジョの奇妙な冒険」という、ジャンプを愛しジャンプに愛された熱血ビジネスマン。
Twitter:https://twitter.com/uudaiy