育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道
Step4:人生は分岐点だらけ―天秤にかけろ!予算と〇〇!!

2018/03/29 UPDATE

2児の母親として育児に奮闘する姿がTwitterで多くの女性から共感を集める「よく眠りたまに色々考える主婦」さん。甘木サカヱさんと名を改めて、ライターとしてアイスムにご登場くださいました!
旦那さまのご両親と二世帯同居されている甘木さんですが、その生活は協議の上、さまざまな紆余曲折を経て始まったのだとか。

中古物件市場の中でははぐれ●タルクラス級のレア度となる二世帯同居が可能な広めの住まいを探し求め、街をさまよう甘木さん夫婦。2人の前に現れたのは憎めないけど頼りない不動産営業マンのY氏。物件探しのブルースは加速していきます!!!

二世帯住宅?完全同居?プライバシー VS スケールメリット

ようやく具体的に動き出した、三世代5人家族の家探し。
休日のたびに不動産会社の担当Y氏の見つけてきてくれる物件を、若夫婦である私と旦那とで見学に行く日々が始まりました。
前回、中古市場にはほとんど出ないと言われている中古の二世帯住宅(キッチン・風呂などが二世帯分備わった住宅)が突如として目の前に現れたにもかかわらず、相場よりも価格が高い点と、売り主の未練が家の随所から漂ってくる点が理由となり見送りとなってしまいました。しかし、今後、もっと条件がよく、売り主が円満退去(?)した中古物件が見つかるかもしれません。
二世帯住宅である程度分離した生活をするか、間取り広めの普通の広さの中古住宅で完全同居か。
どちらにどんなメリットがあるか、家探しをしている間、家族でたびたび話題に上がりました。

・二世帯住宅のメリット…プライバシーが守られる、自分たちのペースを守って生活できる
・二世帯住宅のデメリット…キッチン、風呂等が別々なので、光熱費や食費、家事労働の上でのメリットがあまりない
・完全同居のメリット…食事の支度や風呂掃除などの家事を分担できる。介護や育児の際、互いの様子がよくわかる
・完全同居のデメリット…お互いの生活ペースをすり合わせる必要がある。プライバシーがあまり無い

それぞれのメリットとデメリットは表裏一体であることがよくわかります。
家族間のプライバシーを優先するか、大人数で家事をシェアすることが出来る暮らしを優先するか……

義母は初めから、完全同居に積極的でした。
「せっかく一緒に住むのに、台所もお風呂も別々なんてもったいないじゃない」という、実に義母らしい合理的かつ大雑把な主張です。
義父と旦那は、特にこだわりなく、どちらでもいいというスタンス。
では、残された私はどちらがいいのか…?そもそも、私は何を望んで同居を決意したのでしょう…?

同居の義父母はズボラ主婦の監査機関である

改めて、私が二世帯同居をすると決めた動機を振り返ってみました。育児と仕事が両立できそうなことと、将来、義父母の介護が容易になることについては、連載一回目でも触れた通りです。
実はもう一つ、それに次いで、いや場合によっては上の二つの理由よりも重大な動機が私にはあったのです。それは、
「家庭内に他人の目を増やし、自分の日常生活を監視させたい!」
はい、本音です。身もふたもない純度100%の本音です。
私の持病の鬱病の調子が良くない時は、家の中が荒れるのは仕方ないとしても、です。
発病以前の私も、家事に関して決して几帳面とは言えず、モットーは「やらなくても死なない/明日できることは今日しない」。要は生来のズボラであるのです。これではいかんと思いつつ、ついつい溜まるホコリ。洗濯物。資源ゴミ。
そして生活のパートナーたる旦那も、極度にこだわりのない性格。夫婦二人で暮らしていた当時は、どちらが耐え切れず部屋の掃除を始めるか、チキンレースの様相を帯びていました。
子どもを育てる環境がこれではいかん。しかし日中、乳児と二人でいても家事へのモチベーションは下がるばかり。
そうだ、同居によって義父母の目があれば、ズボラな私にもプレッシャーがかかり、今よりきっと家を綺麗に保てるに違いない!義父母の目は主婦の監査機関だ!
そう思うと、ためらいがちだった同居へ、ポンと弾みがついたような気がしました。

さて、話を戻します。
二世帯住宅か、完全同居か。
私の(不純な)動機を考えれば、プライバシーを保てる二世帯住宅よりも、義父母の目がある完全同居に軍配が上がります。
しかし本当にそれでいいのか…?実際に生活してみて、息苦しさに後悔したりはしないか…?あるいは私のズボラさに義父母が嫌気が差してしまいはしないか…?
思い悩む主婦の背中を押したのは、義母の一言でした。
「キッチンが一つだったら、ご飯作りも担当制にできるわね!主婦さん朝弱いでしょう?私が朝食作るから、あなた夕飯の担当してよ」
「ご飯作り担当制!!!朝寝坊できる!!!いいですねそれ!!!」
かくして私はあっさりとプライバシーを捨て、この人生の分岐点で、完全同居へと心のハンドルを軽やかに切ったのでした。

無垢材と床暖房、あるいは独房の家

そしてそんな葛藤をよそに、再び不動産会社の担当Y氏から連絡が入ります。
「今回の物件は、すごくお洒落なデザイナーズ住宅ですよ!」
そんなY氏の煽り文句に、若干の不安を抱きつつ現地へ向かう私と旦那。
たどり着いた物件は、確かにオシャレでスタイリッシュな外見の、コンクリ打ちっぱなしデザイン。中古ではあるが築浅、三階建ての6LDKとのことで、大いに期待は膨らみはじめます。
まずは売り主こだわりのリビングから見てほしいとのことで案内されたのは、ワンフロアすべてをぶち抜いた広いリビング。
床と壁には無垢材をふんだんに使い。キッチンはシンプルで上質なデザインの対面式。
まるでカフェのような風景に、主婦のテンションはうなぎ登りです。
今で言うところのインスタ映え。こんな部屋に住めば、ズボラな私も毎日ティータイムに庭から謎のハーブを摘んできて余白の多い皿に添えてみたり、テーブルセンターの上に副菜の小鉢を5種類くらい並べちゃうに違いありません。住みたい。オシャレな家に住みたい。
しかし、そんな浮かれた主婦の脳裏に、静かに警鐘が鳴り響きます。
3階建てのワンフロアがすべてリビング。間取りは6LDK。
…他の部屋は、どこに?
その危惧は、すぐに現実となり目の前に立ちはだかります。
広いリビングスペースを確保するため、他の部屋の広さは、一部屋あたり四畳半程度。
しかも、コンクリ打ちっぱなしの外観のシュッとしたスタイリッシュさを優先させたせいか、窓がほとんどありません。もちろんベランダも無し。
さらに、各部屋に備え付けの収納スペースが床面積を大いに圧迫します。確かに収納は無いと困るけれども、四畳半の部屋にクローゼットを作ってしまうと、まるで収納スペースと同棲しているような印象です。振り向けばすぐそこに収納。いつもそばに収納。もしもしわたし収納。いまあなたの後ろにいるの。
そんな手狭な部屋が、スペースの余裕などなくみっちりと配置されています。窓がなく、風通しが悪く、狭く、暗い。脳裏に「独房」というフレーズがよぎります。

また、リビングの無垢材に予算を使い果たしたのか、そのほかの部屋や設備のチープさが目立ちます。
表参道のオシャレなカフェと、学生の夏合宿御用達の安い民宿。そのくらいの落差。
仮想通貨の相場もかくやという私のテンションの急降下ぶりに、Y氏があわてて「でもここ、床暖房が完備なんですよ!」とフォローに入ります。
床暖房…あこがれの響き。北海道育ちで、冬はいつも半袖でいられるほど温かい室内が当たり前だった私は、関東の冬の室内の寒さにつくづく嫌気がさしていました。
あのリビングに床暖房…いつもぽかぽか無垢材のリビング…それは確かに一瞬だけ、他のすべてのデメリットを天秤にかけさせるだけの魅力ある情報でした。
わずかに目に光が戻ってきた私へ、Y氏が申し訳なさそうに付け加えます。
「ただ、そのセントラルヒーティングシステムが故障しているそうで…」
「そうなんですか?修理できるんですか?」
「ええ。ただ、修理費が50万円程度かかるとのことで…」

チャチャチャチャーン。私の心のスーパーひ〇し君が効果音とともにボッシュートされていきます。
冷静になった私の瞳に映るのは、まだ昼なのにどんよりと薄暗い独房ルームたち。
言葉少なに物件を後にした私たちは、オシャレリビングに予算とスペースを全振りしてしまった売り主のことを思い、なんとも切ない思いにかられるのでした。

つかさちずる

イラスト・つかさちずる

娘との日々をブログ「むすメモ!」に綴ったりLINEスタンプを作ったりしている絵描き。
回転寿司とゲームをこよなく愛するアラサー。
毎週金曜日にブログに四コマを掲載してます~遊びにきてね!

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