【第三話】家族のおでかけはいつも電車
「今日は買い物に行こう。」
季節の変わり目になると、いつも僕か妻のどちらかがそういって、買い物リストを作り始める。
妻の可愛らしい字とイラストが並ぶそのリストを見ながら、僕は隣でパソコンを開いて行き先を決めて、子どもたちに声をかける。
せっかくの休みだから、子ども向けのイベントがないか、新しいお店やレストランがないかを一通り調べて頭の中に入れていかないと……
「あなたは欲しいものないの?」
「パパ!わたし、ここにいきたい!」
「なんのでんしゃ?ちかてつでいくの?」
「僕は楽器屋さんみたいなー」
「パパも新しい服を買おうかな」
家族5人でそんな話をしながら、急いで準備をして駅まで歩く。
家族でどこかにでかけるときは、いつも電車が多い。
電車に乗って駅を出ると、歩いて数分のところに大きなショッピングモールがある。
週末のショッピングモールとなれば、どこからともなく子どもや赤ちゃんの声が聞こえてくる。
若いカップル、夫婦や、学生グループも大勢いて、店内のBGMなんて聞こえないくらいの賑やかな空間。
子どもたちが迷子にならないように、必ず手を繋いでいるのに、
「パパ――!」
と、大きな声で呼ばれるたびに、知らない子どもの声でも振り返ってしまいそうになって、それを妻が横目でみてクスクスと笑う。もう何度も来たことのあるショッピングモールでも、新しいお店を見つけたり季節の飾りつけをみると、ワクワクしてしまうのはなぜだろう。
「あの映画、まだやってるんだね」
「一緒に観ようって言ってたのに、私もう原作読んじゃった」
「そうなの?じゃあ今度DVDで観よう」
「あそこにゲームセンターが見えるよー」
「ねぇねぇ、トイレいきたい!」
「ぼく、おなかすいた!」
そうやって、家や近所とは違う場所でたくさん話をしながらお買い物をするのが楽しい。
妻が服を選んでいるあいだに、近くのキッズコーナーに行って遊ぶ。
少し歩いて、双子の上履きを選んでいる間に、長男と二人で楽器屋とCDショップに行く。
ある程度の買い物コースは決まっていて、子どもたちが飽きてきたら大きな本屋さんに行ってから、ごはんを食べに行くのがいつものパターン。
お気に入りのスカートを買って、双子のお揃いパーカーと長男のジーパンを買ったところで、僕が普段着ているスーツのお店が目の前にあった。
「ちょっと見ていいかな」
「いいけど、スーツ買うの?」
「うん。来月に新しいプロジェクトが始まるからね」
「そっか。また私が選んであげるよ。ネクタイも」
「僕が選ぶとセンスがいまいちだもんね」
「うんうん。私にまかせて」
平日は毎日、スーツを着て会社に行く。私服は休日だけ。
なんだか休日までスーツを試着するのは、ちょっと残念な気もしてしまったけど、新しいスーツとシャツとネクタイをしめると、少しだけ気が引き締まった。
休日に着る服よりも、スーツを着ている時間の方が長いから慣れているのかもしれない。
そして、今日一番の高いお買い物をしてしまった。
お気に入りの服を買って機嫌のいい妻と、少し歩き疲れた子どもたち。
ちょっと早い夕食も済ませたから、あとは電車に乗って帰るだけ。
たくさんの買い物袋を抱えて、夕暮れをみながら歩いて駅に向かう。
近くの道路は、ショッピングモールから出てくる車で渋滞していた。
「今日も楽しかったわ。荷物重くない?」
「大丈夫だよ。僕も楽しかった。」
「スーツも買えて良かったね」
「明日から、仕事頑張らないと。たくさん稼がないとね」
「おぉ!たくさん稼いで、車買うの?」
「ははは。どうだろう。この渋滞をみたら、電車のほうが楽かな」
「そうだね。車はもう少し先でもいいかもね。」
たくさんの荷物を肩にかけ、娘と手を繋いでのんびり歩く。
後ろには、妻と息子たちが手を繋いで、楽しそうに歩いている。
今日も電車に乗って帰ろう。