【最終話】ペアリング
昼休みが終わり、オフィスに戻ろうとエレベーターを待っていると、久しぶりに後輩と一緒になった。大きなプロジェクトが終わって、表情がいきいきとしている。
「久しぶりだね。元気にしてる?」
「元気ですよ。そういえば最近会わなかったですね」
「仕事場の居心地はどう?」
「毎日楽しいですよ」
僕の会社では、役割によって勤務する場所がさまざまなので、同じ部署の仲間でも半年くらい顔を見ないこともある。
3か月ぶりに再会した彼は、目を輝かせて仕事の話をはじめた。
ふと彼の手もとに目を向けると、今まではなかった結婚指輪が光っている。
そうか、彼は1月に結婚したんだったな。
まだ指輪に慣れないのか、話をしていても手元が落ち着かない。
僕も同じ経験をしたことがある。昔の自分を思い出して笑ってしまいそうだった。
妻と結婚する前、同棲をはじめる記念に二人でペアリングを買った。
昼休みにふらっと立ち寄ったアクセサリーショップで、彼女はピンクゴールドの細い指輪を熱心に見ていた。
「可愛い指輪だね」
「うん。でも、指輪似合わないから」
「そんなことないでしょう」
「しばらく指輪してなかったからね」
「じゃあ次のデートで一緒に見にいこうか、ペアリング」
「えっ、ホント?嬉しいな。どこに行こうか悩むね」
そう言って、いつも落ち着いている彼女がそわそわしている姿が可愛かった。
次の週末、デートで訪れたお店には、たくさんの指輪、ネックレス、イヤリングやピアスが並んでいた。
彼女は気に入ったものを手にとってつけてみて、楽しそうに笑っている。
あれこれ悩んで選んでいると何時間でもこの店にいることになりそうだ。
たくさんの指輪の中から二人で選んだのは、キラキラと輝くシンプルなデザインのもの。
シルバーとピンクゴールドのペアリング。
僕は何も考えずに、自分の左手の薬指に指輪をしたが、彼女はびっくりした様子だった。
「えっ、左手にする指輪は結婚指輪だよ?」
「あぁ、そうか。右手にした方がいいかな」
「どっちでもいいけど。どっちにするの?」
「じゃあ、左手にしようかな」
彼女と同棲をはじめ、僕は少しだけ結婚を考えていた。
高校生のころに安いシルバーリングが大流行していて、当時付き合っていた彼女とペアで買ったことはあったが、きちんとしたペアリングを左手にしたのは初めてだった。
そわそわして少し落ち着かなかったが、3日も経てば慣れてしまった。
会社の同僚や上司に結婚したのかと聞かれたが「まだですけど、近々します」と、曖昧な返事をした。
後輩がFacebookに投稿していた新婚旅行の写真を見ながら、あのときのペアリングを思い出し、左手の結婚指輪を眺めた。
実は、結婚式を終えて落ち着いたころに妻が「やっぱり婚約指輪欲しかったかも」と言い出して、一度だけ指輪を見に行ったことがある。
女性はやはりプロポーズでもらう婚約指輪に憧れるものなんだろうかと思い、雑誌に載っているようなブランドのショップを見にいったが、値段を見てビックリした。
ケタ違いの額と、大きなダイヤモンドにくらくらして、二人で笑いながら店を出た。
「車が買えそうな値段だったね」
「うん。僕たちが行くところじゃないな」
「ね。君の引きつった顔みて笑っちゃった」
「それを見て僕も笑ったよ」
「私はやっぱり婚約指輪より新婚旅行の方がいいかな」
「そうなの?」
「ダイヤがついた指輪より思い出の方が大切だから」
「じゃあその代わりに、10年経ったら新しい結婚指輪を買おうか」
「えっ、もしかして10年ごとに新しくするの?」
「うん。たくさん増えたらいいな」
そんな結婚してすぐの話を、僕は最近まですっかり忘れていたが、今でも妻は覚えていた。
もうすぐ結婚して10年になる。
僕たちの指輪は、あと何個増えるのだろう。
幸せを重ねるように。
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