〇〇なときは映画に逃げろ!! ~第5回 新成人になったとき~ 後攻:屈強ちゃん「クラッシュ(’04年)」~人はぶつかり合う 人は人を傷つける それでも人は人を愛していく~

2018/02/08 UPDATE

寒い季節をひとり過ごす、そんなあなたへ…


皆さんこんにちは、こんばんは。年がかわり相変わらず寒い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?


暦の上では大寒を過ぎましたが、寒さはまだまだ本番。そんな時は暖かい部屋で暖かい部屋着で映画に限ります!
勿論つまみのお菓子も必須です。私はハッピーターンが大好きです。アレ、気付くと一袋食べてるんですよね、怖い。美味し過ぎる。


さて、イルミネーションが輝く街並み。冬は大切な人と過ごしたくなる、誰にとってもちょっぴり特別な季節ですね。


私は毎年12月24日は教会に行き、25日は家族と過ごしています。去年もそうしました。
クリスマスイヴに聞く賛美歌は普段よりも美しく聞こえますよね。クリスマスを恋人と過ごすことはとても素敵だと思います。
かといって「去年のクリスマスも一人だった…」と落ち込む必要はないです。
クリスマスは本来キャーキャーはしゃぐイベントではないですからね。
一人だろうが、充実した一日を過ごせばいいんです、そう映画をお供にね(ここでウインク)。


さて今回は、この冬、新しい世界へと踏み出す「新成人の皆さんに送りたい作品」をテーマに映画を選ばせて頂きました。


二十歳、大人の仲間入り、自らの行動に責任が伴う年齢です。私も十代のうちはなんだかんだ親に頼りがちでした。尻拭いばかりさせていました。
でも、お酒が買える!タバコが買える!やったー!なんて浮かれてはいられません。


二十歳からは立派な成人。甘えた事はしていられません。自分の力で生きる努力をしなくてはなりません。何か事件を起こせば「少年」「少女」ではなく実名で報道され、罪を犯せば家庭裁判所や鑑別所などではなく、刑務所に入れられる年齢。


そんな人生の大きな節目を迎える皆様にオススメしたい作品は、ミリオンダラー・ベイビーや、父親たちの星条旗、告発のとき、などの名作の生みの親、ポール・ハギス監督の「クラッシュ」です。


「クラッシュ」 Blu-ray発売中 ¥2,800+税 発売・販売元:東宝
(C)2004 ApolloProScreen GmbH & Co. Filmproduktion KG

部隊はクリスマス間近のロサンゼルス。
黒人刑事のグラハムは仕事の相棒であり恋人でもあるリアと帰宅中に車の追突事故に巻き込まれます。自分とおなじ警察の同僚達がリアに事情聴取をしている最中、グラハムは偶然事故現場の近くに「Keep Out」の黄色いテープを見つけ、そこである黒人男性の死体が発見されたことを知らされます。


クラッシュ。「衝突」。
最初はこのオープニングの事故にまつわる作品なのかな?と思っていたのですが、観続けているうちに、このオープニングの事故は、劇を通して描かれる「個人と個人」、そして「個人の中」の”衝突”のプロローグであることが明らかになっていくのです。


日常の中で起こる人と人との衝突に焦点をあてた群像劇の最高峰

劇の前半は複数の場面が並行して描かれます。

・オープニングに登場した警察官のグラハムとリア
・若い黒人男性に車ごと強盗される白人夫婦
・白人コミュニティで差別的な扱いを受けるペルシアン人家族
・父の介護生活に疲れ果てた白人男性
・帰宅途中に白人警察にイチャモンをつけられ辱めをうける黒人夫婦

どの場面においても、日本ではあまり感じることの無い、多民族国家アメリカならではの人種間の”大きな壁”に起因する悲しく、理不尽な人間同士の衝突、そしていがみ合いが痛々しく描かれています。

肌の色が異なるだけで、話す言葉が不格好なだけで、平等な扱いを受けることができない息苦しさとやるせなさ。優しいはずの人が無意識に行う差別的な習慣がこんなにもマイノリティにとって屈辱的であり、魂を奈落の底へ陥れるのだということを、日常のありふれたワンシーンとして描いており、こういった地獄がアメリカではとても身近な場所で発生しているのだと印象付けられます。

娘に対して愛情を惜しみなく注ぐ母親であっても、世間から認められ、社会的な名声を手に入れている人でも、差別を差別と気づくこともなく、異なる人種やマイノリティに対して横柄で心無いコミュニケーションをとってしまう。そんな、社会に染みついてしまった差別の根深さを、観る人へ投げかける序章なのです。

では、人は残酷で分かり合うことは出来ないのか?

中盤以降この映画は序盤の”人と人との衝突”というテーマから、徐々に”人一人の中の人格間の衝突”へと焦点を移していくように私は感じました。


劇の序盤、車の中でイチャついていた黒人夫婦を理不尽かつ言いがかりで職務質問へと誘導し、奥様を辱めるベテラン白人警官と、彼の素行に疑問を感じ相棒関係を解消する若手警官が登場します。


一見するとベテラン警官は最低最悪で、若手警官は正義の代弁者、といったように見えるのですが、映画を観終わった後、私の評価はおどろくべきことに逆転してしまっていたのです…。


みなさんは、自分の嫌いな人、自分をかつて攻撃し、辱めた人の、その裏側の顔を見たことは、見ようとしたことはありますか?

逆に、自分を守ってくれた人、自分が好きな人の、その裏側の顔を知ろうとしたことはありますか?


今年に入ってからも、たくさんの著名人がマスコミに不倫をすっぱ抜かれ、ある人はその活動生命を絶たれたりしています。けれども、本当にその人達はただ性や貞操にだらしがない、ふしだらな大人であったのでしょうか?何故そうする必要があったのか、それを知らずに一方的な側面だけを見て人のすべてを決めつけてしまうことが、本当に正しいことなのでしょうか?


人は複数の側面を持っていると私は思います。

かつて自分を攻撃した人であっても、自分ではない他の誰かには、どこまでも優しい一面をもっていることがあるのです。そして悲しいことに、逆もあり得るのです。

人は複数の人格が彼・彼女の中でせめぎ合い、衝突し、私たちがみた結果はその”事故”の表面だけなのです。私たちがその人を理解しようとするならば、本当にすべきはその”事故”がおこるまでの過程を知ることなのではないでしょうか?


この映画は、序盤に並行して展開されるストーリーがすべて、オープニングの車の事故そして殺人事件がおこるまでのプロセスとして収束していく驚くべき伏線回収の展開が見ものの作品です。

そしてそのプロセスを通じ、そこに関わる人達の優しい一面と暴力的な一面とを観る人に認識させ、「では、本当に、真に”悪”である人は、この映画の中でいたのだろうか?もしいなかったとしたのなら、この悲劇の原因はいったいなんであったのか?」を問い続けます。


他人とそして自分自身についても、その表面だけを見ることなく、根気強く”歩み寄り続けること”こそが、たくさんの人と暮らしていくために必要なことなのだ、ということを教えてくれる、まさに成人となる方にとって教科書となりうる作品です。是非、お愉しみ頂ければと思います!

投稿者名

屈強な黒人男性ちゃん

屈強な黒人男性とオッサンと映画と音楽が好きな変人です。
Twitter:@999Aeromarine