かぞくとわたし 第四話「天下分け目の我が家の戦い」
歳をとるにつれ、おじさんたちは日本史が好きになる。そして城や軍艦が好きになる。長年それがなぜなのかまったく理解できなかったのだが、気づけば僕も順調に城や軍艦を好きになっていた。日本史の面白いところは、各時代のオチが、我々が生きている現代であるところだ。
一方で、うちの奥さんは日本史に疎い。僕と違い立派な大学を卒業している彼女は、もともと勉強が得意な方だ。僕よりもずっと「勉強のやり方」を知っている。しかし彼女はてんで日本史を知らない。
そんな奥さんが、どうやら大河ドラマ「真田丸」をきっかけに日本史に興味を持ったらしい。急に「大坂の陣ってなにが原因なんだっけ」と聞いてきた。録画していた真田丸を一緒に見ながら、途中途中で一時停止して「秀吉さんの兜、派手すぎない?」「なんで家康さんはこんなことするの?」「このひょうたんは一体何?」と聞いてくる。そのひとつひとつをストーリー仕立てで説明し、納得してもらう。
日本史の面白さに目覚めたのか、奥さんはオススメの本を貸してほしいと言ってきた。僕はわかりやすく歴史が学べる「まんが日本の歴史」を貸す。「応仁の乱以降を読めば退屈しないんじゃないかな」と言ったのだが、真面目な彼女は縄文時代からトライしようとする。「とりあえず、真田丸に出てきた大坂の陣あたりを勉強してみなさいよ」と促し、納得させる。
まんが日本の歴史を読み始めた奥さんは、あるページを念入りに読み込んでいた。それは「関ヶ原の戦い」の対陣図だった。そしてそこに参加しているすべての武将の名前と立場と配置を、一人ずつ覚えようとしていた。
「いやいや、ちょっと待って。まずはざっくりでいいんだよ。そんなの全員覚えようとしていたら大変だよ」
「でもこの大谷さんって武将、偉い人でしょ」
「たしかによく知られた武将だけど、この合戦以降出てこない。まいったな、まさか大谷吉継でそんなに時間かけているとは思わなかったよ」
きっとこんな風にして、奥さんはきちんとした大学を出たのだろう。勉強が大嫌いな僕に、なぜこんな真面目な人が嫁いでくれたのかまったく理解ができない。
しかし数日もすれば、奥さんは僕なんかよりずっと細かく戦国時代を覚えてしまった。マニアックな出来事や聞いたこともない人物の名前、マイナーな武将の兜のデザインまで覚えていた。なにが楽しいのかまったくわからない。
こうして我が家の関ヶ原の戦いは奥さんに軍配が上がり、すでに江戸時代を着々と歩んでいる。僕は先回りして幕末維新を猛勉強するしかないのであろうか。
つづく