2通目:「ハタチの私に言っておく。そのまま悩みまくってくれ」さえりさん
~拝啓、ハタチのわたしへ~

2018/01/19 UPDATE

ライターとして活躍するかたわら、Twitterでは癒しと憧れに満ちた妄想系ツイートで13万人以上のフォロワーのハートをガッチリキャッチ。そして昨年にはエッセイ集「今日は、自分を甘やかす」、「口説き文句は決めている」など、書籍も次々と刊行されて、活躍の場を広げているさえりさん。
7年前の、ハタチのご自身へさえりさんが贈る言葉は、意外にもスパルタで……!?
厳しくもあたたかい、さえりさんからのメッセージ、どうぞご覧ください(超貴重な写真の数々も、必見です)!

こんにちは!ライターのさえり(@N908Sa)です。


2018年も始まったばかり。「今年こそはめっちゃサボるぞ〜!」と誓いを立てたわたしのところへ、アイスム編集部より「ハタチのご自身へお手紙を綴るような形でコラムを書いてもらえませんか?成人式までに」とメールがあった。

そういうわけで、わたしは年始早々パソコンをパチパチ叩いている。どうやら今年もあまりサボることができなさそうだ……観念して今年もたくさん働きます、いや働かせていただきます!!


さて、ハタチの自分への手紙……と言われて、いろいろと思い出していた。いま27歳だから、もう7年も前の話になる。7年もあれば、考え方も生き方も変わってしまうものだ。20歳のころの自分を思い出すと、なんだか遠い他人のような気がしてしまう。


いまのわたしと大きく違うところといえば、ひとりでいるのが辛くてしかたなかったことだろうか。


あのころのわたしは恋人に依存していた。ひとりで暮らすのが寂しすぎたわたしに、いつでもすぐに飛んできてくれる暇な恋人ができた。でも世の常らしく、その人との相性は最悪だったので、わたしたちは頻繁に喧嘩をした。おかげでわたしは当時の住まいの近所だった町田で頻繁に泣いたし、ヒートアップすると裸足で外へ飛び出したりもした。恋人が、カッターを持ち出したこともあった(自らにあてがうために)。きっと、おたがいに思い出したくない過去になっているだろう。


そんなメンヘラ街道まっしぐらだったわたしも、7年もたてば恋人がいてもいなくても人生って楽しい〜!と言えるようになっているのだから、本当に時間は人を変える。


長々と前置きをしてしまった。そろそろ20歳のころのわたしに手紙を書こう。

手紙の書き出しは、こうだ。


はろー!20歳のわたし。言いたいことはいろいろあるけど、まずひとこと言わせて。なんでもいいからその男とは早く別れなさい。

拝啓、ハタチのわたしへ

その男と別れなさい、と言っても、たぶん「わかってるけど、じゃあこの寂しい気持ちはどうしたらいいの?」とか言うんでしょうね。「だって、ひとりになると辛くてつらくて、家に帰るのがいやで……。これが依存だってわかってるんだけど、でもどうしようもなくて……」って。


その男、悪い人じゃないんだけど、人間にはどれだけ一生懸命歩み寄ろうとしても歩み寄れないレベルの相性の悪さというのが存在するの。人類皆、話せばわかりあえる!というのは高校生までの話。世界って思っているよりもたくさんの種類の人間がいるから、合わないって思ったらすぐに適切な距離をとるお付き合いにシフトしたほうがお互いにとって平和でいい。相手を変えるとすんなり進むことってあるから。まあ、それがわかるのは、ずっとずっと後になるけど。誰かにすがって立とうとしないで、はやく自分の足で立とうとしなさい。これをどうしても、最初に伝えておきたかった。


友達はたくさんいたほうがいい。

彼氏はいたほうがいい。

なにかしら充実しているように見せたい。


そんなふうに心のどこかで思っている、その気持ち。いま思えば、焦っていたのかもしれない。自分がこの先どんな風になっていくのかわからなくて、目の前の得られるものをできるだけ多く手にしたくて、もがいていたのかもしれない。たしかに、焦るよね。上京して、急に誰も守ってくれない場所へポンと投げ出されたような気持ちになって、何をどう選んでも正解ですよ、なんて高校生までと違う環境に急に立たされて。


だから目先のものをできるだけつかもうと、必死になっていた。

でも目先のものって、思っている以上に自分の人生に影響を与えてこないんだよ。


無理やり一緒にいる友達とは卒業すればもうほとんど会わなくなってしまうし、彼氏だって1,2年くらいで別れてしまう。本当に大事なものは、もがかなくてもあがかなくても残り続けるものだよ。


いま生きている世界は、思っているよりもずっと狭いものだから、もっと自分のやりたいことをのびのびとして。人の目なんかに、惑わされないで。


それから。
これ以上大人になるのはいやだ、とどこか考えている節があるでしょう。いえ、これから2年もすれば、わたしははっきりと「就職したら、わたしの人生は闇」と口に出すほどになる。

しかたないかもしれない。楽しそうに働いていたり遊んでいたり、のびのびしている大人を見たことがなかったから。でも、7年たって、いま最大に嬉しいのは「大人がこんなに楽しいものだ」と知れたことだと思う。

遊ぶためのお金があって、時間があって。好きな人に会えて、好きじゃない人に無理に会う必要はなくて。仕事がうんと楽しくて。いつもどこかで誰かの目を気にしていた学生時代とは比べものにならないほどの自由と開放感が、やがてやってくる。「大人になればなるほど楽しくなる」なんて考えたこともなかったでしょう。でも24歳のときも、25歳のときも、26歳のときも、27歳のときも。いまが一番楽しいって、ずっと思ってるのよ。すごく素敵なことでしょ。

……目ざといわたしは「あれ?23歳は楽しくないの?」と言うかもしれない(いやあね、そういうところ可愛くないわよ)。たしかに社会に出る直前と直後はちょっとだけ、辛いこともあるかもしれない。

なんせ、足元がぐらぐらするんだもの。いままで立っていた足元が崩れるような感覚。何を信じたらいいのか、何に向かって進めばいいのか、わからなくなる。それに加えて、わたしは22歳のころに激しい引きこもりをすることになるから、だいぶしんどい時期も待っている。

「わたしがやりたいことって何だっけ?」
「わたしはどうなりたいんだっけ?」
「わたしって世の中でどんな存在なんだっけ?」

いろいろなことを考えるようになる。本当は、自分がやりたいこととか、自分がどうなりたいとか、自分が世の中でどんな存在かなんてどうでもいいのに、それに気づくのにはまだまだ時間がかかる。ラフな気持ちで毎日を楽しんで、誰かを楽しませながら、自分の楽しみを見つけることが一番幸せだって気づくのも、まだまだ先の話。

この先、何度も何度も、帰り道に星を見上げながら涙を流すことになる。悩みすぎて苦しくて吐きそうになることも、誰にも答えを教えてもらえないからと憤りさえ感じることもある。


でも、その時間のおかげで、27歳のわたしは随分と強くなった。「もう無理かもしれない」「もう死にたい」と思っては立ち直ってきた、その積み重ねてきた経験こそがわたしを強くしてくれた。

だから、20歳のころのわたしに感謝を伝えるならば、「たくさん悩んでくれて、葛藤してくれて、辛い思いをしてくれてありがとう」ということかもしれない。


お願いだから、そのまま悩んでいて。辛くなって、泣いて、もう死にたい、って繰り返していて。その苦しさも、引きこもりも、どんな悩みも、長くても1年半程度で終わるから。どれだけ絶望的な気持ちになったとしても大丈夫。それこそが、20歳のわたしにできることだから。


悩んで悩んで悩んで、そのままの自分で前に進んできてね。未来で、待ってる。


敬具

2018年1月吉日


追伸

あと、20歳は女の絶頂!とか思ってるでしょ。一番モテるのは25歳を超えてからだから、20歳後半女子をナメんなよ(あ、でも合コンとかにはもうちょっと行ったほうがいいよ)!

さえりさんから新成人を迎える皆さんへ

と、手紙を書くならこんなところだろうか。きっと過去のわたしに届けることができても、わたしは何も言うことを聞かないだろう。先人の言うことは、だいたい若者には刺さらない。それでも、新成人のみなさんに、わたしが伝えたいことがあるとすれば5つ。


「今見えている世界がすべてじゃない」

「死ぬほど辛い!と思ったことも、必ず過ぎ去っていく」

「その辛さに感謝する日がくる」

「だから辛さはそのままとことん味わっておくこと」

「ちなみに大人はめちゃめちゃ楽しくて、最高。覚悟しとけよ」


こんなところかしら。

いろいろと、長々書いたけれど。

成人、おめでとう。楽しい大人の世界へ、ようこそ。

夏生 さえり(なつお さえり)

夏生 さえり(なつお さえり)

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitter(@N908Sa)の恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計で13万人を突破(月間閲覧数1500万回以上)。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『口説き文句は決めている』(クラーケン)。

Twitter:さえりさん(@N908Sa)
Instagram:n908sa