サラリーマンのオレが諦めた夢の続きを見てみたくてアーティストにインタビューをしてみた
第1回 ~『ポップしなないで』ネオ・ミクスチャー・TOKYOアンダーグラウンド~

2018/01/10 UPDATE

0. カッコ悪く生き続けることを選んでしまったオレたちは…

アイスム読者のみなさん、こんにちは。メンディーa.k.a MENSANSです。以前ちょっとしたインタビュー企画に参加させていただいたご縁で、この度回数限定の小さな連載をやらせていただけることになりました。


突然ですが、みなさんは、もし自分が今の生き方をしていなければ、自分はいったい何をして生きていたんだろう?と考えることはありますか?


僕は21歳の時に、それまでずっと自分がバカにしていた、会社勤めのサラリーマンとして生きる人生を選択しました。


その時まで、自分はきっとロックンロールスターになって、マブいスケたちをはべらせて、毎日夜中まで飲んで、路上で起きて、打ち上げをやるお店とケンカして出禁になって、最後はメンバーとケンカして解散して、ファンに銃殺される…


ここまで具体的な将来設計をしていたのに!


自分の生き方に後悔はありません。けれども、僕は本当にロックンロールスターになる素養はなかったのだろうか?いったい、ロックンロールスターになるために、僕にはどんな素養が足りていなかったのだろうか?

学生時代が終わってからも、表現を続けている僕の友達と、僕と、いったい何が、どう違ったのでしょうか?


就職してからずっと胸に抱えていたそんな問いを、今もまだ、表現活動を人生の主軸としているかつての友人たちにインタビューすることで、明らかにしてみたい。

そして、たとえば今、夢と現実とを天秤にかけて将来を考えている人や、かつて夢と現実とを天秤にかけて、現実を歩むことに決めた人たちの背中を少しだけ押してあげるようなものが書けたなら。


この連載はそんな企画にしたいと思っています。


まず最初のゲストは大学の後輩であり、バンド活動を一緒にしていた仲間でもある2人、

「ポップしなないで」に話を聞いてみました。


<バンドプロフィール>
ボーカルのかめがい、ドラムのかわむらによる、セカイ系おしゃべりJPOP。
歌とラップとピアノとドラムで、現実と上手くやれない「君」に寄り添ったり寄り添わなかったりする音楽を日々作成中。

1. 『ポップしなないで』 episodeゼロ

今日はよろしくお願いします。久ぶりだよね。大学卒業してから会ってないから、8年ぶりくらい?2人とも元気でした?


8年って、小学校卒業できちゃうよ…そんなことある?メンさん思ったより元気そうですね。顔もつやつやしてるし。炭酸水とか飲んでるし。もっと豚みたいに太ってると思ってた。


元気でした。ずっと元気でしたね。これからも元気なんだと思います。元気じゃないことないです。やりたいことをやったまま時間だけが過ぎている感じなので。バンドがダメだからお先真っ暗というわけでもないし、仕事はわりと普通の所でやっていて、嫌いなわけではないですし。
急に連絡があったので驚きましたけど。


そうだよね。なんの因果かフォロワーが1万を超えてしまったので、これをなにかに還元できないかなと思って。今僕はサラリーマンとして生きているんだけど、昔の仲間はバンドをまだ続けて、すごくかっこいい表現を続けている人がたくさんいるので、僕のことを知ってくれている人にもぜひ知ってほしいし、2人のような才能を抱えている人たちの勇気にもなるかなと思って相談しました。


うおー。RTしてくれー。


(笑)するする。ではまず最初の質問で、「ポップしなないで」はどういう経緯ではじめたの?急にインディーズで有名になったような感じがしたのだけど…


リリースがラッキーだったよね。


誰かが拾ってくれたってこと?


タワレコが声かけてくれて。全国流通できたんですよね。それがあるまではいつCD出すとか、まったく想像してなかったんですけど、雑に録音したSoundCloudの音源が急に1万回再生とかになるタイミングがあって、全然知らない人たちが僕らの曲を聞いてくれるようになったなー…と思ってたタイミングで声をかけてくれたんです。そこから活動のレベルが一段上がったような気がします。


ほー!ちなみに、2人でやろうってなったのはどういう経緯なの?


かめちゃんはもともと舞台とかやりつつ弾き語りの活動をしていて、それはそれでいいんですけど、少しもったいないなと感じて声をかけたのがきっかけですね。自分がいるバンドの世界で、この人がちゃんと歌ったらもっと良い戦い方できるなぁって思って。というか、こんなレベルの人他にいないだろうって思って。その時自分も自分で作るものが欲しかったから、声をかけたんですよね。
たくさんのバンドがいろんな音楽やってるんだけど、やっていくなかで段々それが均一化されていってしまうような気がして、特別尖ったものをやりたいなと思って始めたのがこのバンドなんですよね。
もはやビートと歌だけでいいだろって振り切って。


コンセプトがあるよね。サウンドに。


うん。演出家と演者みたいだなって思ってる。舞台が作ってあって、その中で、どう演じるか、みたいな。


音楽やってるとどうしても、どういうコミュニティとか界隈のみたいな話がでてくると思うのだけど、昔だったらポストロック系とか激情ハードコアとかさ。あの中でいうとどういうくくりになるの?


メンさんがバンドやってた頃ってリンキーディンク系列[1]とか高円寺界隈[2]とかそういうのがわりと明確にインディーズの中にありましたよね。ぼくらはこういう形態でやっているので、バンドとも一緒にやるし、アイドルと一緒にやったりもしますよ。シーン自体がすごく多様化してるんですよね。高円寺で活躍していた人がアイドルのライブに流れ込んできたり、逆にアイドルもそういうところを巻き込んだりしていて、シーン同士がインターネットでミックスされているような気がします。そういう文脈もあって僕らが活動しやすい環境にもなっていると思う。


1.犬式、School Food Punishment等、数多くのバンドがかつてシノギを削った下北沢ERA、吉祥寺WARP等ライブハウスの総称。やたらLINE6のでかいエフェクター使うギタリストが多いことで有名でした

2.我が道を行くサイケデリックバンドマン達の純情ネバーランドのこと

2. どうでもいいことを、無視することがどうしてもできなかった。

曲を作るにあたって伝えたいものは具体的にあったりするの?


人生の本筋みたいなものがあるじゃないですか。みんながやらなきゃいけないこととか、なんとなくやらないといけないなって感じていることとか、でも、そういうひとつひとつのことのハードルが高すぎると思うんです。だから僕らは脇道にそれた部分の面白さを伝えたい。完全に現実逃避なんですけど。


なるほど。


これはサークルの先輩だったメンさんのインタビューだから言うんですけど、僕らがサークルに入った時、メンさんたちの世代って本当に面白い人達がいたじゃないですか。メンさんを含めて。
ずっと、その面白さの理由を考えていたんですけど、アレって全部「無駄なこと」だったじゃないですか。誰かに影響を与えるわけでもなくて、どこまでも自分の価値の判断に基づく「おもしろさ」を曲とか行動に取り入れていって、それって人生の本筋とはまったく関係がないんですけど、あれに憧れ続けて僕たちは音楽をやってるんですよね。
そういう意味で全力で没頭できる、没入できる寄り道の世界を作りたかった。だからそういう思いが結果として非現実的な、アニメーションだったり、不思議な女の子の出演するPVだったり、少しファンタジーな映像表現に結びついてるのかなって思ってます。



そうなんだね。僕がこの企画を立ち上げたのは、自分がそういう人間ではなかったことに対する振り返りで、パーソナルな世界に没頭することが、当時すごく怖くて、あんまり踏み込めなかったんだよね。
それってすごく怖いことじゃない?やらなきゃいけないことをやってた方がずっと生きやすくて。
それは最初からそうだったの?みんながなんとなくそう思って、なんとなく流れていく方に行くことは考えなかったの?


わたしは1回就活をして、ESも4枚くらいだして面接もしたことがあって、志望はモノづくりとか商品系とかできたらいいなって思ってた。最終的には映像系やりたいなって思うところまで行きついたのだけど、それやったら声を使った仕事できないなって思って、そう思ってからは最終的にはほとんどやらなかったかも。当時、わたしはそれがかっこいいって思っていたのかもしれない。今はもう少し冷静なったけど、今が楽しすぎて、バンドは自分にとって大切すぎるから、それをやめてサラリーマンになることは考えられないかな。


自分も言ってしまうと、自分があこがれていたものとは違う凡人だったので、就活はして内定ももらったんですけど、がんばって就活した人じゃないのに、内定がもらえたことに喜んでる自分が急に怖くなってしまって(笑)。オレはこのまま歳をとって死ぬんだって思ってしまって、自分は音楽に振り切りはしなかったけど、せめて自分のやりたいことをやる時間がないとだめだなって思ったんですよね。
仕事をちゃんと探せなかったんだと思うんですよね。音楽がどうでもよくなれるくらいの仕事がみつかったら素晴らしいことだったんだと思うけど、どうでもいいことばっかり、どうでもいいおもしろいことばっかり考えてしまって、それを無視することは出来なかったから。


わたしはそこまで頭がよくなかったというか、考えられなかったというか…


NO FUTUREだからね。PUNKSだよ。50になったら入れ墨屋のババァになってよ。

一同 (笑)


他の生き方はあり得なかった?


ずっと、本当に一生懸命考えたけど、売れなくても同じことやりたい。


自分は音楽とか言葉とか作ること以上に何かおもしろものが出てくる人生があったらそっちにいくかもしれませんね。カレーとか。カレーを作りはじめて喜びに目覚めたらカレー屋になるかもしれない。


3. 曲の中で、自分が生きているということ

ずっと聞きたかったんだけど、曲とか歌詞とかを作って、そういうのを「これだっ!」って思って出せるポイントってある?


え、どういうこと?


これでいいぞっていうラインみたいなものですよね?それはね、本当にメンさんの悪い癖です。

一同 (笑)


真面目すぎます。一番のクオリティをお届けしないとって思って、渾身の一作を作らないとって身構えると、作れなくなっちゃうと思いますよ。どんどん疲れちゃうから。聞き手のことを考えなくていいから、聞き手は自分たちでいいからとにかく作っちゃうんですよ。


考えないんだ。


考えない。高校生が喜ぶとか大学生が喜ぶとか、それを狙って作れるプロじゃないですし。僕らが続けていけるために、一番面白くなるために満足できれば曲に愛着も沸くし、それでやるかなって思えるようになるんですよね。引け目とか恥ずかしさとかなくて書き捨ててればいいし、最高じゃないのが最高でしょって思って出してます。もちろん適当に作っているわけじゃないですけど。僕らみたいなあやふやなものづくりをしていると、最高に到達するのは無理なんで。


2人はすごいこだわりが強い人だと思ってたから意外だったかも。


こだわりは強いんですけど、2人なのがよいのかもしれません。4人だと作ってる中でこだわりがずれてきちゃうことがあると思うんですけど、2人だとこだわりの修正がないので、すり合わせる作業が少なくてすむから。


なるほど。僕がバンドやってて、最後疲れちゃったなって少しだけ思ってたのは3人の他のメンバーがいて、それぞれにこだわりが強くて、わりと明確にやりたいことがあって、オレだけ、そこまでなくて。
その3人のこだわりを想像しながら「あて」にいってたんだよね。そうすると「あて」にいった音になるじゃん?
でもそれってオレである必要のない音だしって思うようになってきて、その思いがバンドをやってる時期を通してすごくコンプレックスだったんだよね。そんな時に将来を選ばなきゃいけなくなって、このままオレが表現を続けるのってウソじゃん?オレがやることはこっちじゃないなって。当時を思い返すとそんな感じだった。


でもたとえば、メンさんのバンドにもっと強烈なドラムが入ったとして、それは違うんだと思うんですよね。メンさんが「あて」にいった音が最後の決め手になって曲ができてたわけだから。今考えてみるとそれも含めて個性のバランスで、音楽は全員がやれることやれるわけじゃないから。


その苦しみはすごいわかるというか、わたしもこのバンドだと、歌詞とメロディーはあって、もう曲はできあがっているから、その曲という世界の中はどうやったら「存在」できるかをずっと探していて、曲の中で自分が生きていることが一番大切に思ってる。実感できないと苦しいというのわかる。


それがドラムだと難しいよね。いうても、結局存在してバンドだからね。


「存在」してなきゃと思って頑張りすぎてたなって思うこともあって、当時のメンバーのいまの音楽を聴いたりすると、もっとシンプルな形だったりして、なるほどなって思ったりした。


メンさんマスロック好きだったしなぁ。でも、個性出してないとは思わなかったですけどね。他の人達とは違ったけど、十分な濃さはありましたけどね。個性がないとフォロワー増えないですよ。サークルの中で一番多いからね。何をパラメーターとしてみるとか別ですけど、充分に濃かったし、誰にも負けないくらい尖っていたし、おかしかったですよ。奇人変人ではなかったけど、程度としては同じくらい狂ってた。


うん。安心してほしい。常人じゃないから。


オレも常識の弁がある側の人間だからわかりますけどね。


わたしだってあるよ。失礼だな。わたしだけ非常識かのように…


一同 (笑)


3. もっともっと自由になれる場所を探したい

今後の活動はどういう方向性でいこうとしているの?


音楽やってる中で出てくる人との関わりを大切にしていくことが、音楽そのものを有意義にする秘訣なのかもと最近思っていて、ちゃんとまわりにいる他のクリエイターさん達と関わっていきたいと思っています。


うん。バンドの展望はわからないけど、すごく楽しいから、続けたい。一人で弾き語りしている時、緊張で怖いことがたくさんあったんだけど、人の書いた歌詞をうたうことで自由になれたというか、なにも間違ってないんだなって思えるようになったから、これからは自分がもっと自由になれる場所を探せるといいなって思ってる。メロディーとかリズムとかにとらわれなくていいし、どうやったら一番聴いてもらえるのかを探していきたい。


最後に一個だけ聞いてほしいことがあるんですけど「あなたにとってポップしなないでとは?」って聞いてもらっていいですか?


あなたにとってポップしなないでとは?


「アナザースカイ」です。


?????




知らないの???アナザースカイごっこしたかっただけなの…


あ、そういう番組ね。ごめんね。せっかくだから教えてよ。あなたにとってポップしなないでとは?


一番たのしい暇つぶしって感じ。死ぬまで飽き無そう。


わくわくだね。生命維持装置って感じ。


いいね。素晴らしい。うらやましいな。ライブ楽しみにしてますね。今日はありがとうございました。



ファンシーで不気味。ゆるやかでタイト。優しさのなかに感じるほんの少しの不信感。どこまでが本当でどこまでが嘘なのかの境界線の曖昧さ。そういう違和感が違和感なく同居しているという違和感。

ポップしなないでのライブを初めて観て感じたのはそんな魅力でした。


仕事では「もっと考えてから持ってこい」と怒られることが多い僕だけど、表現者としては慎重すぎるほど慎重だったのかな?という新たな自分の一面を知る三十路でした。


それではまた。

投稿者名

MENSANS

大手外資コンサルティング企業に勤める32歳。一児の父。
『元・激務界の貴公子』という異名を持つ。
強靭な体力と精神力を誇るが、アルコールからの誘惑にはめっぽう弱い。
論理的な風を装うがその実、好きなマンガは「るろうに剣心」「幽遊白書」「ジョジョの奇妙な冒険」という、ジャンプを愛しジャンプに愛された熱血ビジネスマン。
Twitter:https://twitter.com/uudaiy