かぞくとわたし 第三話「どっち似問題」

2017/01/18 UPDATE

「あら、ママ似かしらね」

親戚や友人が我が娘(5ヶ月)の顔を覗き見て、そう僕に告げる。

「ですかしらね」

僕はほんの少し不機嫌になり、「娘のキュートな瞳はどう見ても僕のキュートな瞳そのものじゃないか!」と心の中で叫ぶ。そんな不服そうな僕の表情を奥さんは察知して、「まあまあ」と余裕たっぷりの笑顔でなだめる。悔しい。

百歩譲って、現在の僕に似ていなかったとしても、赤子の頃の僕に娘はソックリなはずなのだ。というのも、奥さんの赤子の頃の写真を何枚か見させてもらったが、娘より頭が長く、娘よりとぼけた顔をしている。それに比べ僕の赤子の頃は、まんまる顔だし(たぶん)、ほっぺは赤々としていて(たぶん)、垂れた眉毛が限りなくキュートだ(たぶん)。

しかし残念ながら僕の赤子の頃と娘が似ているかどうかは実証ができないのである。たぶん、たぶんと続くには訳がある。

実は僕が2歳の頃、住んでいた家がほぼ全焼し赤子の頃の写真がすべて燃えてしまったのだ。成長アルバムには2歳からの僕の姿しか残っていない。(それでも限りなくキュートなんだけど)焼け残った家族写真には、30年以上経った今でも火事現場のきな臭い匂いが残り、消火の際にかぶった水のせいで、どの写真もにじんでいる。

だが、実は一枚だけ僕の赤子の頃の写真を持っている。きっと親類が保管していたものか、たまたま別の場所に紛れていたのか、なんとかこの一枚だけは2017年に残ってくれた。その写真は祖母に抱かれた生後6ヶ月ほどの僕であり、ほっぺが真っ赤で限りなくキュートだ。

唯一残っているこの写真と娘を見比べてみると、確証は持てないがやはり僕と似ている気がする。しかし奥さんにはたくさんの赤子写真が残っており、その圧倒的な物量によって僕は毎回敗北するのだ。

寝室にそっと侵入し、寝ている娘の頭の匂いを嗅ぐ。数回スーハースーハーすると、赤子独特の、せっけんのような、乳のような、良い匂いがする。いつか娘は「私ってパパに似て、限りなくキュートよね」なんて言ってくれるんだろうか。それとも、「パパに似なくてホントよかったわ」なんて言ってくるんだろうか。無意味な妄想に心痛めながら、父は今夜も娘のミルク代のためにキーボードを叩く。

投稿者名

酒井栄太(サカイエヒタ)

株式会社ヒャクマンボルト代表。日々丁寧に寝坊しています。奥さんと娘、猫2匹と暮らしています。清潔感がほしい。
URL:1000000v.jp Twitter:@_ehita_