【第二話】5人分のごはんを作る朝
結婚する前から、付き合っていた彼女とその子どもたちと同棲していたshin5さん。毎朝、彼が家族の朝ごはんを用意しているそうです。今回も家族への温かい想いを伝えてくれました。
朝ごはんは、僕が作ることが多い。
どんなに夜更かしをしても、終電まで仕事をして帰ってきても
朝にはパッと起きられる。本当に不思議だと思う。
いつも、おなかを空かせた子どもたちに起こされて、
食パンをトースターで焼き、目玉焼きとソーセージを同じフライパンで
温めながら、サラダとヨーグルトを5人分用意する。
スープは、お湯を注ぐだけのコーンポタージュ。
子どもたちの3つのカップには、クルトンをいれてあげよう。
「朝、早起きしたほうが朝ごはんをつくる約束ね」
妻と結婚する前、同棲を始めたころに作ったルールだけど、
ちょっとズルいのは、妻が朝になると僕に抱きついてきて
「おはよう。パパ起きて。ほら、起きた?」と起こしたあとに
寝たふりをすること。
可愛いけどズルい。だけど、本当に可愛い。
結婚する前、こんなことがあった。
ごはんの用意をしていると、ちょっとした変化に気がつく。
「このお箸、どうしたの?」
「お店に行ったらいいのがあったから、買ってみたの。どう?」
「みんなお揃いなんだね。あっ、子ども用も可愛い」
「そうなの。こういうの嬉しいなって」
彼女と生活を始めて、部屋の中に少しずつ僕のものが増えていく。
歯ブラシ、コップ、ベランダのサンダル、予備のメガネ、ちょっとダサいセーター。
結婚をする前提で始まった同棲生活なのに、落ち着かなかったのは最初だけで、
自分のものが増えていくにつれて安心した。
もう帰る時間を気にしなくていい。
好きな人と一緒に、好きなだけ一緒にいられる。
ソファで編み物をする彼女。プラレールで線路を作って遊ぶ子ども。
僕もソファーに座ってのんびりしようとすると
「ねぇねぇ、いっしょにあそぼうよ!」
「せなかにのっていい?たたかいごっこだ!!」
と言われて、一緒にバタバタと遊びだす。
遊び疲れていっしょにお風呂に入って、絵本を読んであげたら、
「ありがとう。私が寝かせてくるね」
そういって、彼女にバトンタッチをする。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ。早く寝てね」
「朝起きたら、いなくなる?」
「ううん。今日はお泊りするから朝もいるよ」
「やったーーー!あしたもあそぼうね」
「オッケー。おやすみー」
小さな弟のような、子どものような、守りたくなるような大切な存在。
その子どもを、いつも優しく見守る彼女。
ずっとずっと一緒にいたいと思った。
朝、目が覚めると彼女が朝ごはんを作っていた。
子どもはもう起きていて、遊び始めている。
「おなかすいたーー!ママーー!」
「いま作ってるから遊んで待ってて。」
「まだーー?」
「いい匂いがするね。おはよう!」
「おはよう!!ねぇねぇ、あそぼう!あそぼう!」
そんな話をしながら、テキパキとテーブルに朝ごはんが並べられた。
全ての器から、ふわっと湯気が出ていて
どれも美味しそうな和食の朝ごはん。
ごはんは炊き立て、温かいお味噌汁。
焼き鮭と和え物の小鉢が3つ。
「僕、こんなにキラキラした朝ごはんはじめてかもしれない」
「そんなの褒めすぎだよ。料理をするときは、手が抜けないから」
「本当にすごい。いただきまーす!」
「いただきまーす!」
「なんか嬉しい。どうぞ食べて。」
それから、彼女の作る手料理はどれも美味しくて幸せだった。
一緒に作ったり、新しい料理に挑戦してみたり、失敗したりもした。
いつの日か、こんな話をしたのを覚えている。
「料理するの好きなの?」
「僕は好きだよ。食べてくれるひとが、喜ぶから」
「それ分かる!たくさん食べてくれると嬉しいよね」
「刻んだり炒めたり茹でたり、順番にどんどん作るのも好き」
「私、実はそれが苦手なんだよね」
「そうなの?手際いいのに」
「そんなことないよ」
彼女と話しをしながら、わかったことが二つある。
本当は、料理があまり好きではないこと。
おいしいごはんを作るのに、料理をすることそのものが苦手だったのだ。
食材を順番に準備して、炒めたり、煮たり、味付けをする。
全ての料理が、タイミングよく温かいまま食卓に並べられるか、
そのことを常に考えながら作る時間が、好きではないと。
僕はむしろ、その料理をする過程が好きだったから
一人で音楽をかけて、お酒を飲みながら料理をすることがある。
「いつもごはんおいしいのに」
「その言葉は嬉しいけど、苦手なものは苦手よ」
「不思議だ。どうしてだろう」
「よく分からないけど、急いで作るのも好きじゃない」
「朝とかもそう?」
「うん。そもそも、朝早く起きるのが苦手」
「えっ」
よく考えてみるとそうだ。
彼女が朝ごはんを作ってくれた日は、保育園の用意を忘れたり
会社に行く電車の中で眠そうだった。
ささいなことで、ケンカをしていた気がする。
ちゃんと話ができてよかった。
毎朝、子どもたちが、元気よく僕を起こしてくれる。
「パパ!おなかすいた!」
「ごはんつくってー!」
「今日はフレンチトーストが食べたい!」
日曜日の朝は、子どもたちの起きる時間がとても早い。
おいしい朝ごはんを作ったら、妻を起こしにいこう。
機嫌がよかったら、ちょっとだけ一緒に二度寝しよう。