かぞくとわたし 第二話「猫の家」

2017/01/04 UPDATE

いつも家族の一員として大切なペットが、ご近所とのコミュニケーションのきっかけになることもありますよね。今回は猫を飼っている人ならきっと共感できる「家族と猫」のお話です。

我が家には猫が二匹、同居している。どちらも変哲のない雑種猫だ。

一匹は、仙台で保護されたメスのハチワレで、牛柄をしている。東北弁で牛を指す“べこ”という名前だ。神経質だが、なかなかの美猫である。もう一匹は都内のシェルターで保護されていたメスのサビ猫。茶褐色の彼女は“ザラメ”と言う。人なつこく甘えん坊な豊満ボディの猫である。

これまでにも僕はたくさんの猫を飼ってきた。メス猫を追ってそのままどこかへ行ってしまったオス猫や、20年しっかり生きた大往生猫もいた。

猫がいない生活は考えられない、という方ならわかっていただけるだろうが、猫好きの年表には「どの時代にどんな猫と過ごしたか」という欄が設けてある。そして僕の最新年表には、この“べこ”と“ザラメ”の2匹の名が刻まれている。

“べこ”と“ザラメ”は立派な箱入り娘である。家猫として育った彼女たちは外の世界を知らない。無論、玄関のドアを開けたところで二匹が外へ飛び出すことはない。Amazonの荷物が届けば一目散にクローゼットへと逃げ込み、来客にすら滅多に姿を見せない内弁慶である。

しかし一度、小型犬用のリードを付けて“ザラメ”と夜の町を散歩したことがある。はじめての外の世界。彼女が鼻をヒクヒクと動かしながら散策していると、遠くにいたカップルに「あの人タヌキ連れてる」と間違われた。それ以来、僕も“ザラメ”も、外の世界がすっかりトラウマとなってしまった。

そんな彼女たちが唯一外の世界と触れ合えるのが、一階にある窓辺である。「猫は窓辺好き」という生態は某サッシメーカーのCMで全国区となったが、我が家の二匹も例に漏れずちゃんと窓辺が好きである。

二匹は琉球のシーサーの如く窓辺に座り、家の中から通りを歩く人を監視している。たまに威勢の良い高校生たちにからかわられながらも、懲りずに毎日外を眺めている。そのうちに我が家は近所から「猫の家」と呼ばれることとなり、近所の人に会えば「今日は座ってないのね」「白黒の子がタイプ」「二匹並んでるとレア」などと声をかけられるようになった。猫ブランディングは良好な近所付き合いにおいて非常に効果的である。

今日も彼女たちは窓辺に座る。雨が降れば窓に流れる水滴を眺め、風が吹けば舞う枯れ葉を眺める。間もなく恐怖の予防接種があることも知らずに。

つづく

投稿者名

酒井栄太(サカイエヒタ)

株式会社ヒャクマンボルト代表。日々丁寧に寝坊しています。奥さんと娘、猫2匹と暮らしています。清潔感がほしい。
URL:1000000v.jp Twitter:@_ehita_