【第十五話】8月のカレンダー

2017/07/28 UPDATE

ご家族との会話やshin5さんの思いやりがあたたかい、大好評のファミリーエッセイ。
子どもたちが待ちに待った夏休みの季節がやってきました!6人家族になってはじめての夏休み、どんな夏を過ごされるのでしょうか。ますます賑やかになるshin5さん一家から目がはなせません!

「パパ!きょうはどこへいくの?パパはなつやすみじゃないの?」

朝、スーツに着替えていると、夏休み初日を迎えた娘が話かけてきた。1週間ほど前からセミが一斉に鳴きはじめて、今日も真夏の太陽が早朝からアスファルトをジリジリと焼いている。夏休みに突入した子どもたちはプールが開く時間まで、リビングでのんびりしている。

「夏休みがある子どもたちがうらやましいなぁ」
「いつもより賑やかでうれしいわね。でも、給食がないからお昼ごはん考えなくっちゃ」
「夏休みはママが大変だっていうよね。いつもありがとう」
「子どもたちにたくさんお手伝いしてもらうから大丈夫!」

「えーーーーーっ」

寝転がっていた子どもあわてて起きはじめ、にわかにリビングが賑やかになった。

ニュースキャスターが今年の夏は例年以上の猛暑になり、お盆シーズンは帰省ラッシュで渋滞が予想されると話していた。ベランダに植えてある朝顔とひまわりに水をあげると、風鈴がちりりんと涼しげな音をたて、にぎやかなリビングに涼しい音を運んだ。

毎年夏になると、妻はどこからともなく旅行会社のパンフレットをたくさんもらってくる。プログラムは大きな遊園地から4泊5日の旅行までさまざまで、とても豊富だ。

「ねぇ~、今年の夏休みこそ、思い切ってみんなで旅行にいってみない?」
「できるかなぁ。双子が産まれる前は、よく旅行に行っていたのにね」
「うん、家族3人で沖縄に行ったりしたわね」
「宮古島とか石垣島にも、もう一度行きたいなー」
「あの時は共働きだったし、3人で人数も少なかったけど、家族6人になったらいくらかかるだろう」
「計算するのが怖いね・・・」

家族3人の時は毎年旅行にでかけていたのに、双子が産まれてからというもの、家族旅行にいけていないことを思い出した。子どもたちのだれかがタイミング悪く風邪をひいてしまって断念したこともあったし、なにより、まだ幼い双子が長時間電車や飛行機の中でじっとしていられるとは思えなかったからだ。そうこうしているうちに、気がつけば夏休みが何度も通り過ぎてしまった。

4人の子どもたちと一緒に過ごせる夏休みの回数だって限られているのだから、どこかへ出かけて家族の思い出を一緒につくりたいと思った。

お風呂に入り、子どもたちを寝かしつけたあと、妻とチラシやパンフレットを見ながらめぼしいプログラムを一緒にさがしてみた。贅沢な大人向けホテルの金額にびっくりしながらも、旅行プランはどれも魅力的で、ビーチサイドでウェルカムドリンクを飲んだり、家族でバーベキューを楽しんだりと、いろいろ妄想をしながら夢を膨らませた。

飛行機に乗って北海道にいくなら、どこにしよう。沖縄なら美ら海水族館は外せない。以前泊ったイルカの住むホテルは、まだあるだろうか。今年こそ、どこかにいけるだろうか。そう思っていると、パンフレットをもくもくとみていた妻が話しかけてきた。

「私ね、別に旅行じゃなくてもいいの」
「えっ?そうなの?」
「うん。赤ちゃんをつれて移動するのは大変だし、あなたが忙しいのもよく知ってる」
「じゃあどうして。」
「夏休みの話もしないで、ただ過ごしちゃうのはもったいない気がしちゃってさ」
「そっか。計画だけでも立てたかったんだね。」
「旅行は今年でも来年でも、いつでもいいから、ちゃんと一緒に楽しめるような計画を一緒に考えてみたかったんだ」

そういわれてハッとした。ここ数年、忙しさにかまけて、連休や週末の過ごし方を、しっかりと妻と話していなかったように思う。行きたいところはたくさんあるし、子どもたちが夏休みの日記を書くことが楽しくなるような思い出をたくさん作りたいと考えていた。考えていただけで、その話をする時間がなかった。

二人でちゃんと話しをして、家族みんなで話して、具体的な日付をカレンダーに書いてみないと、日々の忙しさの中で忘れ去ってしまう。

「お兄ちゃんだけ飛行機のったことあるのにずるいって、あのふたりもよくさわいでるわよ」
「僕も聞いたよ。玄関に飾ってある空港で撮った3人の写真を見ていっていたね」
「今から沖縄は予約もむずかしいかもしれないけど、熱海の花火大会ならみんなでいけるんじゃないかな」
「そうだね。せっかくだから1泊くらいはしたいね」
「そこは2泊でしょ。パパ」
「そういうと思ったよ」
「あっ、そういえば、昨日オリオンビール買ってきたんだけど飲む?」
「やっぱり沖縄に行きたかったんだね」
「うん・・・。」
「来年は絶対にみんなでいこう!」
「去年もそれいってなかったぁ~?」

冗談を言いながら、僕は一緒に予定を書き込むために、8月のカレンダーをプリントした。

「どんな小さな予定でも、ひとつひとつ書いてみようか。」

そういうと、妻はさっそく小さなシーサーのイラストを真っ白なカレンダーに描きはじめた。今年の夏はどこへ行こう。どんな夏にしよう。

投稿者名

shin5

都内で働く会社員。Twitterに投稿した日常ツイートが話題となり、22万を超えるフォロワーから注目され、2015年に漫画化した。「結婚しても恋してる」「いま隣にいる君へ。ずっと一緒にいてくれませんか。」は異例の15万部を突破し、仕事を続けながらWebメディアへの連載、執筆活動もスタート
Twitter:https://twitter.com/shin5mt