【第十二話】旅先からのメッセージ
ご家族との会話やshin5さんの思いやりがあたたかい、大好評のファミリーエッセイ。
忙しいビジネスマンとしての一面も持つshin5さん。今回は出張の際の、ご家族との決まりごとについて聞かせていただきました。
好奇心旺盛なお子様方と、ちょっとヤキモチ焼きな奥さまが笑顔でいられるよう、旅先でも奮闘する、パパとしてのshin5さんが健気です。
出張へ行くのは、月に1度くらいだ。
西は九州、北は東北。さまざまな都市へ行けるのはおもしろくもあるけれど、他の仕事との兼ねあいやスケジュールの調整、荷物の整理には毎回頭を悩ませる。
今回は大事なプレゼンテーションをするために都内のオフィスを離れて、客先の大阪本社を訪問することになった。
荷物をまとめていると、僕の苦労はつゆ知らず、子どもたちはよりいっそう無邪気に話しかけてくる。僕が旅先から送る写真や、買ってくるおみやげを、いつも楽しみにしてくれているからだ。
「パパ、おしごとどこにいくの?でんしゃ?ひこうき?」
「いつかえってくるの?あした?」
「ねぇねぇ、来月の吹奏楽コンクールは、出張に行っちゃだめだからね」
にぎやかな声のひとつひとつに頷きながら、1泊2日分の荷物をスーツケースに詰めこんだ。
ひと息ついて顔をあげると、ふと妻と目があう。
僕の出張があまり好きではない妻は、いつもより元気がなさそうだ。
「大阪の出張、気をつけてね」
「そんな顔しないで。ごめん。わかったよ。明日には帰るよ」
「浮気したら帰るところはないから。覚悟してね」
「ちゃんと連絡するから、安心して待ってて」
「笑顔で見送りたいんだよ?けどね……」
「ほら、子どもたちも心配しちゃうよ」
「うん。そうだね」
まるで付き合いたてのカップルのような会話がくすぐったい。
当日朝の恒例行事だ。
僕が終電で帰る日も、起きて待っていてくれる妻。子どもたちを寝かしつけたあとのひとりの時間は、さびしくて不安になるらしい。
たったひと晩だけとはいえ、妻を心細くさせてしまうことは、僕もつらい。
いつだったか、出張先でヘトヘトに疲れた僕はホテルにつくと、スーツのままベッドに倒れこんで眠ってしまった。目が覚めて慌ててスマホをのぞいたら、画面は数十件のラブ(!?)コールであふれかえっていた。午前3時から朝方まで、プリプリ怒る妻をなだめた夜のことを思い出しながら、新幹線に乗りこむ。
今回こそは時間の合間をみつけて、妻へたくさん連絡を入れるようにしよう。
「いま新大阪に着いたよ。これから仕事先に向かうね」
降りた電車を写真に撮って家族へ送る。妻への無事の知らせと、電車が大好きな長男と次男へのささやかなプレゼントだ。
そうしているあいだに、大阪が誇る日本一高いビルであり、今回の目的地である、あべのハルカスが見えてきた。
スーツを整え、名刺入れの位置を確認してから電車を下りる。
今回の出張がうまくいけば、また仕事が増えて会社から評価されるかもしれない。
たくさんの期待を背負って、大きく一歩踏みだした。
長い会議を終えると、あたりは夕暮れになっていた。
充実感を抱きつつ、妻に連絡を入れる。
「いま仕事が終わったよ。うまくいきそうだ。」
「おつかれさま!じゃあ、これから飲み会?」
「行きたいところだけど、明日に向けて資料をまとめないと」
「出張先でも働き者だね。飲み会あるなら顔だしたら?夜ごはんはちゃんと食べてね」
「うん、ありがとう」
ホテルに着くと、ノートパソコンを鞄から取り出し、スーツの上着を脱いだ。ネクタイを緩めながら打ち合わせの内容を上司に報告し終えたころには、窓の外はもう暗くなっていた。
部屋にひとりでいる時間は、にぎやかな我が家を思い出してさびしくなる。
「はやく終わらせて、たこ焼きくらいは食べに行きたいな」
ホテルで独り言をつぶやきながら、上司と仲間に共有する資料をまとめ、メールで送ってひと段落。気が緩んでウトウトしていると、ベッドの上のスマホが鳴った。
「パパおきてる?パパー!」
電話に出ると長男と次男の元気な声が聞こえてきて、目がさめた。
「起きてるよ!夕飯は食べた?お風呂は?」
「とっくに済ませたよ!もう寝るところ」
「えらいね。みんな元気にしてるかな?明日、帰るからね」
家族の声を聞くと、疲れが少しずつ消えていくからふしぎだ。
「パパ!ラピートのる?!しゃしんとってきてね!」
「えっ」
「もしもし、南海ラピートだよ。難波駅から出てる、青い電車だよ!」
確かに以前、子どもたちに「大阪にはめずらしい電車があるんだよ!」と教えてもらったことを思い出した。路線図も見せてもらったのに、乗ることもなさそうだからと、あいまいな返事をしてしまったような気がする。
「よーし、わかった。明日写真を撮ってくるから、たのしみにしてて」
息子たちとの会話を終えると、妻と娘の声も聞こえてくる。
「もしもし?連絡ないから心配しちゃったよ」
「ごめんね!ホテルでついのんびりしてたんだ」
「もう!連絡とおみやげは忘れちゃダメだからね!」
「パパー!わたしのおみやげは?」
「またキティちゃんのキーホルダー買って帰るよ」
「やったー!」
「ちょっと早いけど、おやすみ。パパ明日帰るからね。」
そう言って電話を置くと、脱ぎすてたスーツの上着とネクタイをハンガーにかけ、パソコンの電源を切って外に出た。
結婚する前は、出張が決まるといつもワクワクしていた。
結婚して家族も増えたいまは、少しだけさびしさがある。
たこ焼きを食べたら、子どもたちの好きな電車の写真を撮りに行こう。
明日仕事が終わったら、妻におみやげを買っていそいで家に帰ろう。
次に大阪に来るときは、家族みんなでどこにいこうか。