かぞくとわたし 第十二話「猫枕という生存戦略」
サカイさんとご家族のエピソードに優しい気持ちになるエッセイ、更新です。
今回はご家族の一員であり、枕としても活躍する……?猫ちゃんが登場。
猫ってかわいくて気まぐれで、笑顔の源になる存在ですよね。
我が家には「猫枕(ねこまくら)」がいる。それは猫のかたちをした枕であり、枕のかたちをした猫である。
猫を2匹以上飼っていると、性格がそれぞれまったく違うことに気付く。彼らをみな「猫」という動物としてひと括りにしていいものなのかと不安になる。まあ我々も例外なく、おおざっぱに「人間」としてひと括りにされてはいるのだけれど。
我が家の2匹の猫は、共に雌猫のおない年。ハチワレ猫の「べこ」は機敏で神経質、サビ猫の「ザラメ」は鈍臭くて人懐こい。2匹の性格の違いは寝る姿からもよくわかる。部屋を見渡せるキャットタワーの上で眠るのがべこ、主人の布団の上で腹を出して眠るのがザラメだ。
そんな猫たちにとって、1年前から新たに仲間入りした人間の赤ん坊(娘)はどのような存在になるのか興味があった。奥さんと娘が退院してきたその日から、我が家のヒエラルキーは一変した。これまで「猫至上主義」だったこの国は、一晩で「お子至上主義」となったわけである。これは悲劇だ。
はじめのうちはか細くひ弱な泣き声だった娘も、今ではドタドタと床を徘徊し、ありとあらゆる物を口に入れ、そして時おり奇声をあげている。すっかり猫よりも身体が大きくなった娘は、猫の尻尾をつかまえては誇らしげに「ウー」と叫ぶ。
それまでの絶対的な「かわいいかわいいポジション」を奪われた神経質なべこは、娘の姿を見るなり安全なベッドの下に避難するようになった。一方、人懐こいザラメは、ごろんと娘のそばに寝転がる。娘に捕まっても喉を鳴らし、顔を饅頭のように揉みしだかれ、その豊満なボディを娘専用の枕として提供している。
「猫枕」。いつしかザラメは我々からそう呼ばれるようになった。
はたして、猫枕は娘をなんだと思っているのだろう。猫枕の中に眠っていた母性が芽生え、娘を仔猫だとでも思っているのだろうか。それとも、自分は枕なんだと今さらながらに目覚めてしまったのだろうか。飼いはじめた頃から、その柔らかいシルエットと悠々たる寝姿に「この猫はもしかしたら枕なのかもしれない」と薄々感じてはいたのだが、まさか本当に枕だったとは。
娘を受け入れる猫枕は、以前に比べ我々夫婦に褒められるようになった。そのたびにおやつがひとつ、べこよりも増える。これが猫枕なりの生存戦略なのだとしたら、たいしたものだと思う。
今日もまた、猫のプライドを捨てすっかり枕となった猫枕を、ベッド下のべこが冷ややかな目で見ている。そして猫枕も、猫の姿であり続けようとするべこを冷ややかな目で見ている。
つづく