月刊住むひと vol.13 JR東海道本線 辻堂駅 徒歩9分 賃料14.6万円 〜誰かと住むこと〜
この連載はほぼ実在する(ほぼです)ひとつの物件を取り上げて、この部屋に住んでいるひとの人生はどんなだろう、と勝手に妄想していくものです。
北向ハナウタが描く「住むこと」についての漫画とエッセイ、第13話。
交通:JR東海道本線 辻堂駅 徒歩9分
賃料:14.6万円(管理費含む)
築年数:築8年
主要採光面:南西
間取り:2LDK / 50.2㎡
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その他:RC造、3階
誰かと住む、ということ
さて、今回のテーマは「誰かと住むこと」についてである。
人生の様々なタイミングで誰かと一緒に暮らすこともあるかと思う。それは恋人との同棲かもしれないし、結婚かもしれない。友人とのシェアハウスの場合もあるだろう(ペットと住むこともあるが、すでに「vol.02」にて話しているため今回は割愛させていただく)。
筆者も実家に住んでいたころ、友人から「おれと一緒に住んでくれ、一度でいいから下北沢で一緒に住んでくれ」と執拗にシェアハウスのオファーを受けたことがある。
楽しそうではあったものの、「まずは一人暮らしをしてみたい」という思いと、「なんで下北沢?」という思いから何度も断り続けていたら友人も次第に観念したらしく、仕方なく当時の恋人と同棲をはじめた。
今ではその当時の恋人が友人の嫁である。なんなんだ。良かったじゃん。
服が自分とは違う畳み方をされていたとき
というわけで筆者はそのチャンスを最後に、実家を離れて以降一人で暮らしている。
誰かと住むということはどういうことなのだろうなーと思い、Twitterにて「誰かと一緒に暮らしているなー、と感じた瞬間について」を募ってみた。
集まったエピソードを読んで、筆者が何かあいだにコメントを入れるのも野暮だなと感じたので、そのまま掲載させていただきたい。
問:「誰かと一緒に暮らしているなー、と感じた瞬間」を教えてください。
・あとで畳もうと思ってパッと脱ぎ捨ててしまった服が、気がついたら自分の畳み方じゃない畳み方で綺麗に畳まれていたときです
・本棚に自分が買ってない本が並んでいたとき
・疲れて家に帰ったとき、すでに部屋の電気がついてるのが外から見えた時点で、情緒が爆発します
・ウォシュレットや空調の設定が自分のいつものと違うことの攻防戦
・トイレットペーパーがすごい早さでなくなるとき
・夜遅く家に帰って温かいご飯が待っていたこと
・すっかり忘れていた金曜ロードショーの録画がしてあって、あ、これ見たかったやつだって気づいてうれしかったりすることです
・起きる時間が違う相手を目覚まし音で起こさないようにApple Watchのアラームの振動で相手を起こさず起きるようになったこと
いいじゃんか。
プラスもあれば当然マイナスもあるのだろうけど、みんなの声をこうして並べてみるととても良いものだなと思った(筆者がいい具合に酒を飲み歌を歌った帰り道にこれらのリプライを読んだからかもしれないけど)。
もちろん、「誰かと住むことこそが人類の幸せなのだ」というつもりは毛頭ない。ひとつの選択に過ぎないとは思うけれど、自分以外のためにApple Watchが使われる生活があるなんて、筆者は知らなかったのだ。
たくさんの部屋があって、たくさんの生活があった
突然だが、今回のvol.13をもって『月刊住むひと』は最終回となる。
この連載の初回、冒頭でこんなことを書いた。
”少し路地に入ってみると本当にたくさんの家が、部屋があるんだなと実感します。こんなに人が住んでいて生活があるんですか。マジですか、こんなに同時進行で人生が動いているんですか。”
架空の物件を取り上げて住むことについて考えていく連載。
ロフト付きの物件や狭いキッチン、不思議な建物名、同居人と趣味が合わない話など、自分では想像し得ない生活について書くにあたって、次第に、今回のようにいろんな方の意見を聞きながら書き進めていくようになった。
それは、たくさんの部屋の数だけ、たくさんの生活が、同時進行の人生が動いているのだということを改めて知る機会でもあった。何を隠そう筆者自身が一番「住むこと」を考える良いきっかけになったのだ。
この連載を通して、筆者以外の誰かにとって「住むこと」を考えるきっかけになれたら、これ以上嬉しいことはないと思う。
1年と少しのあいだ『月刊住むひと』と架空の登場人物たちにお付き合いいただきありがとうございました。連載させていただいたアイスムさま、お読みいただいた皆さま、たくさんのエピソードを寄せていただいた方々に改めてお礼を申し上げて、この連載を終了としたい。
北向 ハナウタ