【第十話】ふたりの約束、ふたりの時間
奥さまやお子さんとの会話がほほえましい、shin5さんのファミリーエッセイ。
お仕事に子育てにいつも忙しくされているshin5さんご夫婦。久しぶりにゆっくりお休みをとった日のエピソードを聞かせてくださいました。
奥さまと一緒にすごす平日は、どのようにして始まるのでしょうか。
朝ごはんの匂いにつられた子どもたちが起きてくる。
いつもどおりの平日の朝だ。
洗面台にはじける水の音と、にぎやかな話し声が聞こえてくる。
寝室の窓をあけると朝陽が射し込んで、隣接するリビングにまで風が吹き抜ける。その瞬間が気持ちいい。
今朝のメニューは、ツナとポテトのサンドウィッチ、ソーセージと目玉焼き。そしてサラダとヨーグルト。
食卓をかこみながら、それぞれの予定を確認する。
妻が声をかけると、子どもたちが順序よく答えていく。
「お兄ちゃんは今日も部活?」
「毎日部活だよ。新入生がたくさん入ってきたから大忙しなんだ」
「ふたりは今日が期限のプリントを、先生に出すの忘れないでね」
「はーい!」「ぼく、きのうプリント出したよ!」
「私は花屋さんのお手伝いに行こうかな。定休日前だからバタバタすると思うの」
「僕は仕事が落ち着いたから、今日は早く帰るよ」
「パパ早く帰ってくるの?何時ごろ!?」
食べ終えた食器を流しに下げながらもなお、あれやこれやと言葉を交わしているうちに、会社に行く時間が近づいてくる。
この時間になると、ジャケットをはおり腕時計をつけてネクタイをととのえ、カバンの中身を確認してから家を出るのが出勤前の習慣になっている。
カバンにスケジュール帳をしまおうとして、ふと、ある考えが浮かんだ。
「明日、会社休もうかな」
先週末に大きなプロジェクトがひと段落したせいか、昨日出社したらチーム内はすっかり落ち着いて、安心したような雰囲気が漂っていた。休日出勤したときの代休も、まだ数日残っている。
思わずつぶやくと、妻が微笑んで声をかけてきた。
「明日は会社を休んで、私と一緒にのんびりする?」
「それではハルさん、ふたりきりでデートしませんか」
「もちろん!いいですよ、シンゴさん」
ちょっとおどけて、笑いあって家を出た。
いつもの通勤路なのに、足取りが軽くなっている自分が可笑しい。
翌日。仕事を休むことはできたけれど、朝はやっぱり慌ただしい。
みんなで食べた朝ごはんの後片付けをしながら、身支度をする子どもたちに声をかける。パパとママがそろってお見送りするなんてめずらしくて、3人ははしゃぎながら登校していった。
そうして今度は、ふだん妻の日課になっている家事を一緒にやっつけていく。
家中の窓をあけて空気を入れ替えたら、廊下から各部屋へと順番に掃除機をかける。
ちょうど天気がよかったから、洗濯機も2回まわして、寝室の毛布や枕をベランダ干して日光浴をさせる。
ふたりで動くとどんどん片付くものだから、次第に楽しい気持ちになってきた。
結婚する前のこと。家事をするタイミングで、ケンカをしてしまったことがある。
「私がお掃除してるのに、なにしてるの?」
「雑誌読んでる。ちょっと待ってて。あとで手伝うから」
「手伝ってほしいんじゃない。一緒にやるの」
「わかったわかった。あとでお風呂掃除してくるよ」
「いま!」
そう言われてやっと、しぶしぶ動いた僕だったけれど、彼女の言葉が新鮮だった。
「手伝ってほしいんじゃない。一緒にやるの」
家事は手伝えばいいなんてものではなく、僕も一緒にするものなんだ。
こんなことで不満がたまって、雰囲気も悪くなってしまったまま、時間がすぎてしまうのはもったいない。
一緒に動けばそのぶんずっと早く終わるし、余った時間も楽しくすごせる。
一緒に暮らすこと、家族になることとはこういうことだと実感した。
家事は分担して一緒に取り組もう。
終わったら、好きなことを思う存分しよう。
それが、最初につくった家族のルールだ。
掃除と洗濯を二人で片付け、落ち着いたところでソファーに腰をおろした。
準備しておいたルイボスティーを淹れながら、声をかける。
「いつもありがとう」
「あら。どうしたの?」
「僕と子どもたちが家を出たあとの家事、毎日たいへんでしょ」
「そんなことないよ。気分がのらないときはしないことにしてるもの」
「ははは。君らしくていいね」
「でも、お洗濯やお掃除はけっこう好きなんだよ」
「うん。料理はできるだけ、僕がやるようにするからね」
「ありがとう。まかせた!」
会話をしながらのんびり過ごす、この時間もなかなか好きだ。このままゆっくり休んでもいいけれど、今日はやっぱり、デートに行きたい。
向きなおり、くつろぐ妻に声をかけた。
「いい天気だね。どこにおでかけしようか」
「デートコースはおまかせするわ。私、準備してこようっと」
「じゃあ、30分後に出発しよう。おいしいケーキを食べにいくのはどう?」
「いいね!楽しみだなあ」
妻のうれしそうな返事を聞きながら、思いっきり深呼吸をする。
家事もお出かけも一緒にできる、こんな日をもっと、つくっていこう。