育児 × 介護 = “戦略的”二世帯同居!への道 Step29:「【番外編】家族がふえたときのこと」
義父母夫婦に若夫婦、そして2才の息子。もうひとり子どもがほしいな~!と思いながらの5人家族の暮らしにふいにやってきたのは、待望のコウノトリではなく…?
忘れもしない、雨がしとしとと降る、5月末の夜のことでした。
ベッドに入って隣で寝ていたはずの旦那が、むくりと起き上がり、寝室のカーテンを開けて窓の外をのぞき見ています。物音で目を覚ました私は寝ぼけ眼をこすりながら、隣で眠る息子を気にしながらそっと起き上がりました。
「どうしたの」
「なんか鳴き声がする」
窓を開けて耳をそばだてると、たしかに動物のか細い鳴き声が聞こえてきます。
窓の下は庭になっていますから、野良猫が鳴きかわしているのは日常茶飯事ですが、そのときはちょっと様子が違いました。
今にも消えそうな細い声の場所が動かない。おそらくはごく幼い子猫。しかも1匹だけで、親を呼んでいる。
私と旦那は、どうする?と目顔で探り合いました。親猫が来るまで放っておく、という選択肢もあります。どこかに餌を探しに行っているなら、そのうち帰ってくるでしょう。
しばらく様子をうかがっていましたが、一向に親猫が帰ってくる様子もありません。しかも天気はあいにくの冷たい雨。子猫の小さな体はあっという間に冷え切ってしまうでしょう。
意を決して旦那と階下に降りると、義父母の寝室のドアがタイミングよく開きました。
一階で眠っている義父母は私たちよりも早く鳴き声に気づいて、どうしようかと思案していたようです。
「でも、家に入れたってどうするの。飼えないわよ」という義母。
「里親を探すこともできますし……」と私。
猫好きの私は「明日の朝、子猫が外で冷たくなってたら寝覚めが悪いですよ!」と、気が進まない様子の義父母の良心に訴える卑怯な手段を使います。
旦那は黙って寝室の窓を開けて庭に降り、懐中電灯で草むらを照らし……ほどなくして茶トラ柄の毛玉のようなものを手に、戻ってきました。
それは大人の片手の平に乗るほどの、まだ目も満足に開かないような子猫でした。
「かわいい~!」
さっきまで保護に難色を示していた義父母をひと目でメロメロにする、まさに子猫の魔力です。
まずは雨で冷えた体を温めねばと、慌ててタオルで濡れた毛を拭いたり、ペットボトルにお湯を入れて湯たんぽをつくったりとドタバタしていると、階下の騒ぎに目を覚ましたらしい息子がトテトテと階段を下りてきました。
初めて間近で見る子猫に、息子は大興奮。子猫を入れた段ボール箱を覗き込み、「ねこちゃん!だいじょーぶよ!〇〇くんがいるからね!あんしんしてね!」と一生懸命励ましていました。
一方大人は、「子猫 保護」で検索したり、猫用ミルクが売っていないか近所のコンビニに電話して尋ねたりと大忙し(結局、どこにも子猫用ミルクは置いていませんでした。各店の夜間勤務シフトの皆さま、その節はご迷惑をおかけしてすみません)。
そんな中、旦那が再び窓の外に目をやり、呟きました。
「もう1匹いる……」
うそでしょ?と連れ立って庭に出てみると、さらにか細い声ですが、確かにどこかから鳴き声がします。
しばらく探し回り、その声が隣家の庭からしていることを確信した私たちは、ふたたび顔を見合わせました。
時刻はすでに23時すぎ。こんな夜中に、パジャマ姿でお隣のチャイムを鳴らしていいものだろうか……?しかし一度乗り掛かった舟です。1匹だけ助けてもう1匹は見殺しにするなんて選択ができるはずもありません。
恐る恐る隣家を訪問し、すぐに出てきた奥様に事情を話し庭に入れてくれないか頼むと、なんと「ああよかった、ぜひお願いします!さっきから鳴き声が聞こえてどうしようかと思ってたの。私、猫が大の苦手で……」とのこと。背の高い草をかき分けて探した旦那が抱いて戻ったのは、さっきの子猫と同じくらい小さな、白とサバブチの痩せた子猫でした。
とにかく保温。それからネットの情報に、子猫用のミルクの代用品として温めた砂糖水を飲ませてもよい とあったので、スポイトで少しずつ与えます。食後は親猫ならば舐めて排泄を促すところを温めたおしりふき(息子用)でお尻を刺激してあげてと大騒ぎ。
ひとしきり興奮していた息子が再びウトウトし始めるころ、2匹の子猫もなんとか落ち着いて、古毛布と湯たんぽ入りの急ごしらえのベッドでスヤスヤと眠りにつきました。
さて、翌日からも大変でした。朝いちばんに連れていった獣医さんで、子猫たちがまだ生後2週間ほどであること、しばらくは数時間おきの授乳と排泄介助が必要であること、徐々に離乳食も始めなくてはいけないことなどを教えてもらいました。
食欲旺盛な子猫たちは、幸い大きな健康上のトラブルもなく過ごしました。数時間おきにピャアピャアと甲高い声で鳴いてはミルクをねだり、温かい脱脂綿でお尻を拭いてやれば気持ちよさそうにウンチやオシッコをし、スヤスヤと眠りにつく、その繰り返し。
私はといえば、息子がようやく卒乳し、これで朝まで安眠できる!とホッとしていたのもつかの間、ふたたび夜中も数時間おきに起こされる寝不足生活が始まったのでした。
最初のうち、猫たちは里子に出すつもりでした。実際にインターネットで里親募集団体なども探し、登録の作業も進めていました。
しかし里子に出すにしても、引き取り手の方の負担を考えると、子猫の離乳は終わらせていなければなりません。トイレのしつけも、それから最初の予防接種も……。
そうこうしているうちに我が家には猫用のトイレが設置され、夜中にいたずらしないようケージを構え、爪とぎにブラシ、爪切りに、子猫用フードに……。
「せっかく入居のときに張り替えた壁紙がボロボロになる」とか、「猫より犬の方が好きなのよね」とか言っていた義父母も、日に日に大きくなり目もぱっちりとし、人懐こく喉をゴロゴロ鳴らす子猫の愛らしさにすっかり骨抜きに。
「里親ねぇ……」「どうしようねぇ……」と猫を撫でながら目を細める大人一同。
そうしてなし崩し的に、いつの間にか2匹の子猫は我が家の家族として受け入れられていったのでした。
そんな子猫たちも今では12歳の立派な中高年。昨夏にはもう1匹の保護猫もやってきて、我が家はすっかり猫一色に染まっています。
この原稿を書いているのは、ちょうどあの日のような雨がしとしと降っている春の夜です。
事故にでもあってしまったか、何か人間にはわからない事情があったのか、ついに子猫を迎えにこなかった母猫たちのことなど考えて、それから、すっかり大きくなって、寄り添ってスヤスヤ眠る3匹の猫たちを見て。幸せで、そして少々センチメンタルな気分になる夜です。