【第九話】また新しいことを始めてみよう
ご家族とのあたたかいエピソードと優しい人柄が人気のShin5さんのエッセイ。
今回は家族みんなの趣味について語っていただきました。
5人家族、それぞれが趣味を楽しまれている様子はにぎやかで微笑ましいですね。
結婚してから、趣味が増えたと思う。
独身のころは、外へ出かけるよりも家にいるほうが多かった。
音楽を聴いたり、楽器を触ったり、借りてきた映画を観る時間が好きだった。
いまとなっては、家にいるほうが少ない気がする。
休みの日は、家族と出かけて雑貨屋をめぐり、手ごろなマグカップや玄関に置けそうな小物を選んだり、花や植木鉢を買ってきて小さなベランダでガーデングを楽しんだりする時間がとても楽しい。
特に予定がない日も、天気のいい時は図書館か公園までお散歩をして、近所にできた新しいお店に寄り道する。
みんなで外に出かけて、なにかをする。そんな趣味が増えた。
金曜日。1週間の仕事を終えて帰宅すると、お風呂あがりの子どもたちが迎えてくれた。
「パパ!おかえり」
「ただいま!明日のお休みは、ショッピングモールにいこうか」
そう声をかけると嬉しそうな反応が返ってきた。
ここ最近は週末も仕事が入っていたり、学校行事が続いたりしたから、お出かけするのは久しぶりだ。
「やったぁ!もしかして映画みる?」
「おもちゃであそべるところある?」
「どんなでんしゃにのる?ちかてつ?」
「明日のおたのしみ!しっかり早起きしてね」
子どもたちを寝かしつけてリビングに戻ると、妻がしげしげと僕を見ていた。
「パパ、急にどうしたの?はりきってるね」
「ちょっと最近、気になってるものがあるんだ」
「なんだろう。新しいフライパンを買うのかな?」
「それはまた今度ね」
妻は、少し前に買ったフライパンを僕があまり気に入っていないことも、調理器具のパンフレットをじっくり見ていたことも知っていた。
でも、明日の目的は別にある。
僕から妻にも聞いてみる。
「きみもなにか買いたいものはある?」
「うーん。私も実は、最近気になっているものがあるんだよね……」
「なんだろう。手芸、それともアクセサリーかな?」
「正解!そんなところ」
「そしたら明日は、まず最初に本屋さんへ行こうか」
「いいね。よく見ながら考えよう」
ショッピングセンターに着いて3階の本屋へ行くと、たくさんの本が話しかけてくる。
スポーツコーナーに並ぶ雑誌は、野球やサッカー、フィギュアスケートなどのスター選手が華やかに表紙を飾っている。
趣味のコーナーは手芸や裁縫、車や釣り、インテリアやレシピと多彩でにぎやかだ。
どれも興味が湧いて、つい手に取りたくなってしまう。
その中から僕は、サボテンや多肉植物の本を選んだ。
妻が隣からのぞきこんでくる。
「それが見たかったのね」
「始めてみたいんだ。ほら、品種もたくさんあるんだよ」
「サボテンに興味を持つとは思わなかったなあ」
「きみはなんの本を読んでるの?」
「私はこれ!『はじめてみよう あみぐるみ』。ちょっと気になってたの」
「2階に手芸屋さんがあったよね。本を買って見にいこうか」
「じゃあ 1階のガーデニングのお店にもあとで行こうね」
「そうしよう!」
僕は児童書コーナーへ行って、子どもたちがそれぞれ選んだお気に入りの本を受け取り、レジに向かう。絵本、電車の本、歴史の本。子どもたちの好奇心もとても豊かだ。
合計5冊の本を買って、肩に提げるトートバッグは少し重くなった。
子どもたちと手をつないで、ひと足先に手芸コーナーへ行った妻のもとへ歩きだす。
そうやって、家族の趣味はどんどん増えていく。
妻が羊毛フェルトでペンギンを作ったときは、僕も一緒に作ってみたし、僕が自家製スムージーやローストビーフにハマったときは、妻も一緒にキッチンに立ち、いつもより手の込んだ料理をした。
忙しい日々のなかでも、興味のあるものや夢中になっているものをお互いに知るのは楽しくて、子どもたちが好きなアニメや電車にまで詳しくなって、会話も増えていく。
夕暮れどきの帰り道。妻と話しながら荷物を抱えてゆっくり歩く。
「今日はたくさんお買い物したね」
「ありがとう。明日が楽しみよ」
「僕も、あみぐるみに挑戦してみようかな」
「羊毛フェルトを一緒にしたときは、大傑作をつくったよね」
「楽しいけど難しいんだよ。手芸とかそういうのは」
「器用じゃないもんね」
クスクス笑う妻はとても楽しそうで、足どりも軽い。
「サボテンと多肉を寄せ植えするときは、きみにも手伝ってほしいな」
「もちろん。私も気になってたんだ」
明日はみんな、思い思いに好きなことをしてすごそう。
本を読んだり、毛糸で編んだり、ベランダで土をいじったり。
そしてみんなでお昼ごはんを食べながら、たくさん話をしよう。