月刊住むひと vol.10 東急目黒線 武蔵小山駅 徒歩7分 賃料8.9万円 〜彼氏と趣味があわない話〜

2019/03/04 UPDATE

この連載はほぼ実在する(ほぼです)ひとつの物件を取り上げて、この部屋に住んでいるひとの人生はどんなだろう、と勝手に妄想していくものです。

北向ハナウタが描く「住むこと」についての漫画とエッセイ、第10話。

交通:東急目黒線 武蔵小山駅 徒歩7分
賃料:8.9万円(管理費含む)
築年数:築29年
主要採光面:南
間取り:1K / 26.2㎡
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その他:鉄骨造、1階

メタルラック・マリッジブルー

前に友人が結婚を振り返りながら「夫がメタルラックをどうしても捨ててくれず、マリッジブルーになるかと思った」と話していたのが強く心に残っている。めちゃくちゃ笑った。

一人暮らしをしていたもの同士が、同棲を機にお互いの家具やインテリアを取捨選択し、ひとつの部屋へ招き入れる。当然同じ家具がダブってしまってもしょうがないのでどちらかは手放すことになる。「洗濯機ふたつになっちゃったなー。ひとつは小物入れにするかー」とはならないのだ。

家電類は比較的選別しやすいと聞く。電子レンジはこっちの方が新しいね、とか、冷蔵庫はそっちが大きくていいね、だとか(万が一別れたあとのことを考えて渋る場合もあるらしいがそれはまた別の話)。

ここで問題なのはそういった実用性と離れた”個人の好み”が介入してくるものたちだ。これをすり合わせていくことは難儀なものである。

あつまれ!リスクのある部屋たちよ

今回この話を書くに際し、Twitterで「恋愛対象の相手の部屋で許しがたかったもの」を募集してみたら、様々な想いのこもったエピソードが集まった。

読んでいる分には大変愉快なのだけど、これはちょっとうまく扱わないと意見がぶつかりあい戦争になりそうなので、がんばってバランスをとりながら紹介していく。

ケース1:強いこだわり持ち

集まったケースのうち、多くは相手が強いこだわりを持っているタイプだ。

相手が骨董品マニアだったのですが、特に柱時計がめちゃくちゃあって全然落ち着きませんでした

柱時計がめちゃくちゃある家、ポジティブに捉えれば小説のようだ。たぶんタイムトラベル系のSF。まぁ落ち着かないだろうな、常にそこかしこで針の音が刻まれている部屋…。

ウォールステッカーが貼ってありました
ヴィレヴァンで売っていそうな小さな兵隊のおもちゃを至る所に忍ばせてあったり、冷蔵庫が黒板塗料で真っ黒に塗られています

かわいいと言えばかわいい、こだわりの部屋である。でもわかる、一度気になると全部恥ずかしくなってくるやつだ。

家具、寝具、一切合切が全て黒という部屋。バンドマンでガラステーブルでした

今回バンドマンでした、という意見が3通寄せられました。

ガラステーブルにiPadや雑誌が置いてあり、かつ部屋もモノトーン調で家具屋かよと笑ってしまった事があります。彼は朝ごはんにリンゴ丸齧りしていました

目についたのは黒い家具、ガラステーブル、アニメフィギュア、バンドマン、目隠しできて前に本を飾れるタイプの本棚など。冒頭の漫画にもバンドマン以外全部取り入れさせてもらった。

服を黒でまとめるひとがいるように部屋を黒でまとめるひとも多い。これがまた好みの分かれるアイテムなのだ。筆者も男3人で冷蔵庫を買いに行った時2人に「絶対黒にしなよ!」と強く勧められたことがある。ことわった。

ケース2:中2タイプ

強いこだわりに通ずるところもあるけど、中2タイプを別で設けよう。なお、今回寄せられた全意見のうち9割は女性から男性に向けて寄せられたものだった。男性よ。

英字の書かれたゴミ箱です。相手が年上だったのでショックでした

写真を見せてもらったのだけど、「TEA」と「YOURSELF」の2単語だけが敷き詰められたやつですごかった。筆者もゴミ箱に英字新聞を貼るDIYしたことあるのでわかる、英字格好いいんだよな。

家の壁紙と床が全部黒と白の市松模様でした。お茶を出されたのですが、コップがビーカーでした。マッドサイエンティストだったのかな

マッドサイエンティストかコンセプチュアルな中央線沿いのバーだ。

ガスマスクが飾ってありました

ガスマスクかー。

壁にガスマスクが飾ってあったときはちょっと引きました

もうひとりいたかー。

モンスターエナジーのプルタブが瓶に貯めてあります、数十個。という報告も寄せられた。これはどこに分類すればいいかわからないのでここに置いておく。

ケース3:無頓着

こだわりをもつやんちゃな住民がいる一方、無頓着な人々も当然いる。

もともと実家だった家に1人で住んでいる人なのですが、お母様の趣味丸出しのメルヘンなカーテンやインテリアをそのままにしているのはかなり嫌ですね…

お母様との付き合いを考えるのも含めて難儀な案件。母親込みのトラブルが今後ある、絶対にだ。

メタルラックがすごい組まれてました、移動できるキャスターつきなのがポイントらしいです

なぜひとはメタルラックを組み立てるのか。あのカスタマイズできるギミックが男ゴコロをくすぐるのだろうか、なぜひとは。

トイレに筆文字が特徴の"人間だもの"的な詩人の名言が載った日めくりカレンダーを置いていました

あのカレンダー、ラーメン屋以外にも置いてあるんだ(訳あって名前を伏せています)。

ポジティブなテニス選手の名言の日めくりカレンダーも気になりました

あのカレンダー…(訳あって名前を伏せています)。

あとは単純に、部屋が汚いとか夏でもこたつを出しっ放しとかそういうずぼらな点が気になるという話も寄せられた。それは確かに、それが一番よなと思う。部屋には、人間の根っこがギュッと表れる。

十人いれば十の部屋がある

というわけでこのように様々な熱い意見が寄せられた。
もちろんメタルラックが絶対悪だと言いたいのではない。それぞれの好みがあって、メタルラックをよしとする人間もいる。正義の反対はまた別の正義なのだ。
大事なのはこの違和感をどう当人たちですり合わせていくかなのだろうと思う。十人十色というように、この世界にはいろんな人間がいる。十人いれば十の部屋があるのである。そう、住人だけに。
えー、おあとがよろしいようで。


…この締めで大丈夫ですか?

投稿者名

北向ハナウタ

東京を拠点に活動する兼業ライター・イラストレーター。
好きなおでんは大根、好きなサイゼリヤメニューは、たらこソースシシリー風です。

twitter:@1106joe
blog:http://kitamuki.hateblo.jp/