自炊はとっておきのセルフケア

コラム・アラカルト

LIFE STYLE
2025.04.04

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「体の中の何かが枯渇している。」

そんな自分のためにキッチンに立った。
冷蔵庫に入っている食材を片っ端からチェックする。まだ新鮮なもの、もう朽ち果てそうなもの、賞味期限ギリギリのもの。それらを組み合わせて何を作ろうか、頭の中でやんわり考えながら手に取っていく。

この日出揃った食材は、植物性のものが中心。例外もあるけれど、自炊ではなるべくプラントベースの料理にするのが好きなのだ。その方が心地良く、軽やかな満足感を得られるし、それに動物性のおいしさはお店でも十分楽しめる。植物性の食材だけでどこまでおいしく作れるか、というチャレンジ的な要素もあったり。

まな板と包丁を取り出したら「ザクッ、ザ、ザ、ックク」と、不規則なリズムで食材を切っていく。

料理の腕に自信はこれっぽっちもない。包丁使いはいつまで経ってもおぼつかないし、フライパンを返すのは怖くて一度も挑戦したことがない。おまけにきちんとレシピ通りに作るのも、分量をはかるのもかなり苦手だ。エプロンさえ、なんだか窮屈で持っていない。

作法も段取りもフリースタイル。自炊にルールなんてなくていいじゃないか。私や、私たちのためだけの料理なのだから。

自分の手で切り分けられていく食材を眺めながら、ここ最近の「体の中の何かが枯渇している」という状態について考えてみた。別にたいしたことがあるわけではないけれど、心が落ち着かず、体が重く、注意散漫で、集中力はすぐに切れて、やるべきことは手につかず、思考にキレがない。そんな、なんとなくの不調。すごく悪くはないけれど、いつもに比べてなんだか少しパッとしない。

そうだ、最近自炊の回数が減っていたんだ。お店の味や甘いお菓子に夢中になっていたここ数日の食生活が、パッとしない状態の原因かもしれない。

自分の食事に手をかけないことは、心にも体にも影響する。いつからか「セルフケア」という言葉をよく聞くようになった。「自分で自分をケアする…」そう聞くと、なんだかハードルが高いような気もする。しかもケアの方法は人それぞれで正解はなく、だからこそ難しい。

そんな中、自炊はとても身近な「自分をケアする」方法だ。なんてことはない、ただ一杯のお味噌汁を作るだけでも、立派な自分のケアになる。もちろんときにはとっておきのレシピを特別感たっぷりに作るのもいい。面倒な食事の準備も「自分に料理を振る舞う」と変換すれば、少しは気が晴れる。

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がんばらない日のインスタントフォー

そんなことを考えていたら、それぞれの鍋やフライパンから湯気が立ち上り始めた。そろそろ味付けをしていかなくては。

なるべくシンプルで、素材のおいしさを生かした味付けをするのが好きだ。想像力をちょっとだけ働かせながら、少しずつ調味料を足しては味見を繰り返す。メインはだいたいヒマラヤンピンクソルト、ブラックペッパー、自家製味噌、醤油やみりん。それらで優しく仕上げられたプラントベースの料理は、食べたあとまでおいしい。苦しくなったりお腹が重く感じることがない。

たまの外食でお店の味を楽しんだあとにまた帰ってきたくなる味。普段、背伸びしたり怠けたりを繰り返す自分が、等身大に帰ってくることができる基盤。家で作る食事は、私にとって毎日の土台のようなものだ。

もちろん遊び心も大切にしたい。飽きが来ないように、辛いものや揚げ物などでちょっとした“ジャンク感”を演出してみたり。食生活は一度飽きてしまうと何やらよくない方向へと向かい、悪循環に陥ってしまう。そうならないためにも、自炊で自分を楽しませることも重要だ。

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大好きなオーツミルクラテを毎朝作るコーヒーステーション

もうすぐ完成する鍋の中身をぐつぐつと煮込む。いい匂いに包まれながら、50パーセントは料理のことを考えている。けれど、別の50パーセントは無心に近い。心の半分ここにあらず、といった具合。半分空っぽになることで、半分瞑想しているような感覚だ。普段考えごとでいっぱいの頭の中に余白が作られていく。

この過程が私に与えてくれる心のゆとりは大きい。自分のために作るごはんを食べることもそうだけれど、それを調理している時間もまた、セルフケアになりうる。時間がなくたって、気持ちに余裕がなくたって、いや、そんなときにこそどうにかして、少しでもいいから自分に手をかけてあげる。自炊はそれにうってつけ。だって、どうせ何か食べなきゃいけないのだから。

出来上がったメニューをそれぞれの器に盛りつけていく。今日の献立はこの3品。

・きのこの旨味と飴色玉ねぎの甘味たっぷりの豆乳リゾット
・味噌が隠し味のレンズ豆のトマトスープ
・簡単手作り豆乳マヨネーズであえたポテトサラダ

家にあるものだけでできた、特別華やかでなければ“映え”でもない3品。それでも今の私にとってはごちそうだ。

熱々のごはんをはふはふしながら食べると、温度とはまた違った温かさでお腹の底が満たされていく。自炊にしか出せない味と温度。体はこれを求めていたのかもしれない。こじつけだったとしても、私がそう思いたいなら、そうだ。

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お店の刺激的で特別感にあふれた味と、自炊の優しい味。どちらにも「心の栄養」が含まれている。それぞれ役割は違っていて、その良いバランスを自分で知っておくことが大事なのだろう。私の場合、自炊の割合が多い方が心も体も元気でいられる。

「今、私はケアされている。」
そんな感覚が体のどこかにあふれて、カラカラに枯渇していた何かが潤い出す。

そうだそうだ、だから自炊が好きなんだった。

こんなに大切なことなのにたまに忘れてしまうけれど、まぁ、それもいいか。忘れたって必ずここにまた帰ってくるんだから。

ちょっとがんばる日の「トマトリゾット」


材料(1人分)

  • 玉ねぎ…1/2個
  • しめじ…50g
  • まいたけ…50g
  • 塩…適量
  • ヴィーガンバター(バターでも)…20g
  • 米…75g
  • 水…適量
  • トマトピューレ…200mL
  • ブラックペッパー…適量
  • ニュートリショナルイースト(粉チーズでも)…適量
  • ドライパセリ…適量

作り方

1. みじん切りした玉ねぎに塩を加えて飴色になるまで炒める。
2. しめじとまいたけを加えてさらに炒める。
  • フライパンに茶色く焦げつくと旨味になるので、しっかり焦げつかせながら炒めるとおいしくなる。
3. ヴィーガンバターを加え、溶けて全体に馴染ませたら洗っていない米を追加。
  • 米は割れないように優しく混ぜる。
4. 米が透き通り始めたら、温めておいたお湯を少しずつ加えながら混ぜ、米がふっくらするまで繰り返す。
  • 水ではなくお湯を加えることで粘りが出ず、米の一粒一粒をしっかり残すことができる。
5. 少量の湯で伸ばして温めたトマトピューレを少し加えて混ぜ、水気が少なくなるたびに繰り返す。
6. 器に盛ったらブラックペッパー、ニュートリショナルイースト、ドライパセリをトッピングして完成!
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