夫婦で母に教わる、八戸の味〜生たらことにんじんで作る「こいり」〜
八戸にUターンして、あらためて感じた故郷の味の大切さ。
ライターの妻(私)と、料理人の夫。
青森県八戸市出身の私たち夫婦は、昨年の夏、子どもたちと一緒に東京からUターン移住した。現在は、夫の両親と同居している。
八戸に帰ってきて最初に義母の料理を食べたとき、懐かしくて泣きそうになった。実家の味とまるっきり同じわけではないのに、素朴で、じんわりと優しく沁みるような味。これが郷土料理の良さなのかもしれない。
東京に住んでいたころを思い返すと、地元の郷土料理が食卓に並ぶことはなかった。そもそも食材が手に入らなかったり、郷土料理を食べる行事が身近じゃなかったりと、いくつかの要因が思い浮かぶけれど、一番大きい理由はズバリ、レシピを知らなかったから。シンプル〜!
郷土料理の魅力を再確認し、義母に「何かレシピを教えてほしい」と話したら、「ちょうど食材があるから『こいり』にしようか」と提案された。
「こいり」は主にお正月に食べられる郷土料理。
「こいり」とは、真鱈の生たらこと、にんじん、大根を使った蒸し煮のこと(私の母に確認したところ、にんじんと大根の彩りが“紅白”なので縁起がいいとされているそう。そのため主に正月に食べられ、年末のスーパーマーケットにはこいり用の生タラコがずらりと並ぶ)。
しかしながら、夫の実家では大根を使わずに、たらことにんじんのみでこいりを作る。理由を聞いてみると、夫の祖父や父は(もしかすると先祖代々?)大根の味が苦手で、その影響から大根を抜いたレシピが受け継がれてきたという。郷土料理の中でもさらに限定的な、家庭の味ということ。
私は普段、家であまり料理をしないけれど、この機会に家庭での調理をほぼ担ってくれている料理人の夫と一緒に、義母からレシピを教えてもらうことにした。
なお、今の時期は生たらこを入手するのが困難なので、自宅にあった味つきのたらこを使って再現している。
こいりの作りかた
材料
作り方
- 1. にんじんの皮をむき、千切りにする。
- 2. たらこの薄皮をとる。
- 3. 深めのフライパンに、にんじんを入れて火にかけ、水を入れる。
- 義母が「水は〜、50ccくらいかな?」と言いながら、計量カップに100ccくらい入れていたので、おそらく水の分量は50ccじゃなくて100ccが正しい。
- 4. ふたをして蒸し煮する。
- 5. にんじんをフライパンの端に寄せて、たらこを入れる。
- 6. たらこが全体にバラけるように混ぜる。
- たらこがパラパラになったら、全体をまんべんなく混ぜていく。
- 7. 酒、みりん、八方汁、顆粒だしを入れて味を整える。
- 8. こいり、完成!
にんじんは皮に栄養があるし、フードロスの観点からいくと、まるごと食べたほうがいいのかもしれないが、今回は義理の実家で受け継がれてきたレシピ通り、にんじんの皮をむいていく。
斜め薄切りにして……
千切りに。
にんじん1本分を私が切ったあと、夫に1本分を切ってもらうことにした。すると……、
トランプマジックでよく見る、あのかっこいいカードの広げ方みたいに(リボンスプレッドというテクニックらしい)、スライスしたにんじんをシャーーーーッと広げていく夫。
私はちまちま重ねて切っていたが、こうすると一気に千切りを作れるそうだ(いや、私がやるときに教えてくれたらいいのにな)。
右が私、左が夫の千切り。やっぱり左のほうがきれいだ……しかし混ざるし加熱するので、味は一緒だろうと割り切るとする。
縦方向に切れ目を入れたら、
真ん中から両サイドに広げ、包丁でスイーッと、たらこをこそげていく。見ていて気持ちいい!!
にんじんがしんなりするまで蒸し煮。
フライパンを傾け、水のあるところでたらこをほぐすようなイメージ。
生たらこを使う場合、調味料の分量を増やすそう。今回は、あらかじめ味のついたたらこだったので不要だが、塩味具合で分量調整を。
生たらこではなく味つきのたらこを使ったので、「これで味を再現できるのかな……?」と半信半疑だったものの、正月に食べた「こいり」と同じ味だった。
にんじんの甘みに、しょっぱいたらこがよく合う。大根ギライの義父も「おお〜これこれ。生たらこじゃなくてもおいしくできるんだ」と感心していた。
“その家の味”を残していくということ
世界から注目される日本食を“ハレ(晴れ)”とするなら、郷土料理は日常を支える“ケ(褻)”の料理だ。
しかしながら、流通の発達により食文化の境界が曖昧になってきて、若い世代では食べられることが少なくなっている。特に“家庭の味”はレシピ化されているわけじゃなく、口承されてきたものなので、核家族化が進んだ現代では受け継がれにくくなっているのではないだろうか。
郷土料理は、食材を保存するための工夫や、その土地の食文化などが詰まった、知恵のアーカイブだ。
どこかに記して残すことも必要だし、何より、食べて次の世代へ伝えていくことが大事なのだと思う。子どもたちにも、いつかこれらの味を「懐かしい」と感じてもらえるよう、少しずつ、義母や実家の母に郷土料理を教えてもらおうと思う。