「四季の旬で恋しいもの、欠かせないもの」なかしましほさんの場合 メインビジュアル

「四季の旬で恋しいもの、欠かせないもの」なかしましほさんの場合

旬を楽しむ

LIFE STYLE
2024.04.12

「旬を楽しむを、もっと身近に」――アイスムが大事にしているテーマです。四季の旬が食卓にあると、生活はより豊かなものになると思うから。気になるあの人の「旬とのつきあい方」をじっくりうかがう企画、今回はなかしましほさんにお話を聞きました。

お話を伺った人:なかしましほさん

1972年、新潟県生まれ。出版社勤務やレストランの料理人を経て料理家に。2006年よりお菓子工房『foodmood』の活動をスタート。本や雑誌、テレビ、プロデュース業など幅広く活躍。毎日でも食べたくなるやさしく朴実な味わいの世界は多方面から熱い支持を受けています。

春・祖母の畑で摘んだいちごを毎日のように食べて育った

四季の旬というと、思い出されるものは祖母の畑で採れたものが多いんです。私は新潟県の中条町(現・胎内市)というところの生まれなんですが、子どもの頃、春になると畑に寄っていちごを食べるのが楽しみで。今、その畑では両親が野菜を育てていて、季節ごとにいろいろなものを送ってくれます。

いちごは生ならそのまま食べるのが一番好きですね。新潟産の『越後姫』といういちごが小粒で甘くて、とってもおいしいんですよ。

春になるといちごの寒天を添えたあんみつを作って食べるのも楽しみです。いちごをミキサーにかけて裏ごしして、寒天とグラニュー糖で煮て固めて。強火で短時間サッと加熱することで、いちごの甘酸っぱさや風味を残すのがポイント。いちごをそのまま食べているような寒天です。

白玉団子は半量を豆腐で作っています。豆腐の風味も感じられて、柔らかく仕上がるんです。蜜はきび砂糖で作って、ミルクアイスを添えて出来あがり。

いちごだと、ババロアも作ります。これは家族が必ず毎年リクエストしてくれるもの。私はいちごって、軽く火を入れたり、しっかり加熱したりして食べるのも大好きなんです。

今、鎌倉の山のほうに住んでいるのですが、自宅の庭で採れるふきのとうやたけのこも春の楽しみ。ふきのとうは天ぷらや、ふき味噌にして、たけのこは採りたてを生で食べたり、出汁で煮たり。ふきも採れるんですが、一度がんばってアンゼリカ(※砂糖菓子のこと)を作りました。佃煮にもします。

自宅からは海が見えて、気持ちがのんびりします。実家も海が近いので、思い出すというか。といっても日本海と太平洋では海の表情も全然違うんですけれど(笑)。


いちごのジャムを使って作るヴィクトリアケーキもなかしまさんの春の定番おやつ

夏・暑い時期の清涼剤はしぼり立てのスイカジュース

夏といえば、うちはもう「なすと枝豆」でした。おやつといえば枝豆で。そもそも新潟県人って枝豆をよく食べるんですよ。祖母も畑で作っていましたが、家族全員がごはんを食べる前にボウル1個分ぐらい枝豆を食べるんです。私、夏の手伝いがひたすら「枝豆を枝からもぐ」ことでした。夏といえば枝豆もぎに追われていた感じで、すごくイヤでした(笑)。

なすも常に食べていましたね。小なすは漬け物にして、大きいものは揚げびたしや煮物にしたり、汁物に入れたり。子どもの頃はなすってさほど惹かれませんでしたが、今は味噌炒めや焼きなすなどを作ります。地味なおかずですが、昔より好きになりました。

あとは親が育てたすいかも送ってきてくれるんですが、大きなのがふたつも送られてくると(少し)途方にくれます(笑)。そういうときはジュースにすることが多いかな。種ごとミキサーに入れて濾して、ちょい塩を入れて飲むとおいしい。夏にベトナムや台湾へ行くとすいかジュースがあちこちで買えるのですが、暑いときにとってもいい。日本でもすいかジュース、もっと広まっていいのに。

自宅の畑ではトマトにゴーヤ、大葉にえごまの葉を育てています。えごまの葉ってどんな荒地でも生えて、世話いらずの生命力が強い野菜。個性のある香りですが、意外となんでも合うんですよ。醤油とみりん、ごま油に唐辛子で漬けるのをよく作ります。あ、それから夏は桃ですね!また新潟産ですが「白根白桃」という桃のおいしさを去年知って驚きました。今年も食べたいなあ…。

秋・ほっくりやさしい甘さの栗あんをトーストにのせて

お菓子屋としては(※なかしまさんは『foodmood』という菓子店を営まれている)秋というと栗を中心に回るんです。栗の名産地もいろいろあるのですが、年によって出来も収穫量も違うので、その動向を追って注文して、栗が来たら仕込みをして…というのが大変なんですね。うちは栗の皮むきを手作業でやっているので、専門のアルバイトの方もお願いしています。

個人的に栗は大好きですよ。栗あんが好きですね。栗をゆでて中を出して、砂糖ひかえめにサッと煮たもの。栗の水分量を見つつ、そのままでもいいし、つぶしてもいいし、お好みで。トーストにのせて食べるのがおいしいんです。

なかしまさんの栗ゆでの方法はとても手軽なのが嬉しいところ。SNSでも大きな話題になりました。

栗に限らずですが、世の中で「季節のものを出すタイミングが早くなりすぎている」のが、私は気になっています。栗のお菓子、8月ぐらいから始まってしまうんですよ。みなさん、先取りをしたがる。本当の食べ頃の時季に出すと遅れた印象になってしまうんですね。悩ましいところです。

秋の旬というと「きだけ」というきのこを思い出します。小さい頃、父と山におにぎりを持っていって採りにいきました。黄色くて、しゃきしゃきした食感で、のっぺ(※新潟の郷土料理で、具だくさんの汁気の多い煮物)によく入れていました。家にはあけびやざくろ、いちじくの木もあって、秋になるとなっていましたね。

冬・オーブンを前にクッキーのレシピを考える時間が楽しい

あんこが大好きで一年中食べているんですが、冬といえばおしるこ。でも私、お餅はいらない。あんこだけでいいんです。どら焼きとか大福とかも、皮とかは無くてよくて。きんつばは皮が薄いからギリギリOK(笑)。自分であんこを炊くこともありますが、買うこともよくあります。こしあんなら紀ノ国屋で買える「山清」の、粒あんなら生協(coop)オリジナルのがおいしくて気に入っています。


こちらのあんこは、なかしまさんの家の近所にある製餡所のもの

冬は湿度が低くて、焼き菓子がカリッと仕上がるいい時期。私はクッキーを作るのが好きなんですが、一番おいしく作れるのは冬の時期だと思っています。クッキーって、お菓子に興味のある人が最初に作るものですよね。シンプルな材料で簡単に作れるのと同時に、奥深いものでもあります。

加える油脂ひとつとっても、バターなら硬いままで使うか、溶かして使うか、クリーム状にして使うかで食感は変わりますし、ココナッツオイルなんかを使っても違う食感になる。甘さも黒糖、白砂糖、きび砂糖でまったく変わってきます。薄力粉だけではなく、一部を強力粉や全粒粉にすることでも違いが出るし、オートミールを粉末にして入れることも。私は食べる以上に作るのが好きなんですが、無限のおもしろさがありますね。

今回お話をいただいて考えてみましたが、新潟に住んでいた頃は「早く都会に出たい」とばかり思っていた田舎が、今の自分を作っているのだなあとあらためて思いました。これからも食と旬を大事に、日々を暮らしていきたいです。

この記事をシェアする

撮影:佐々木孝憲

アイスム座談会