「ひとり飯は、自己解放プログラム」アナウンサー・堀井美香さんのおうちごはん

きのう何作った?

PEOPLE
2022.06.15

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27年勤めたTBSを今年3月に卒業した、アナウンサーの堀井美香さん。お子さん二人が大きくなった今、「ひとり飯」を楽しんでいるそう。家族の状況とともに変化したおうちごはんや、「自己解放プログラム」だというひとり飯について伺いました。

お話を伺った人:堀井美香さん

秋田県出身。1995年にTBSテレビに入社し、27年間TBSアナウンサーとして活動。2022年3月の退社後は、フロム・ファーストプロダクションに所属。TBS『坂上&指原のつぶれない店』等のナレーションを担当している。ジェーン・スーさんとのポッドキャスト「OVER THE SUN」が大人気。今年6月には朗読会『yomibasho Vol.1』を開催予定。

自分の裁量でできた子育て。力を入れたのは料理だった

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ーー堀井さんは、TBSに新卒入社した2年後には一人目のお子さんが生まれ、仕事と育児を並行してきたんですよね。

そうですね。当時夫はすごく仕事が忙しく、親戚も周りにいなかったので、本当に一人での子育てでした。料理も1から自分でやっていましたね。お掃除とかその他諸々の育児は、楽するところはすごく楽したんですけど、料理はすごくしっかりやったかなあ。

ーー忙しい中、日々の料理に力を入れることにしたのはなぜだったんでしょう?

母の影響はあると思います。保育士として働きながら、どれだけ遅く帰宅しても、ちゃんと栄養のある食事を子どもに出そうとする人でした。私が話しかけても「ちょっと待ってて!」って料理を優先するぐらい。今は「楽しく話しながら、料理はできる範囲で」って考え方が主流だと思うので、真逆なんですけど(笑)。

その母を見ていたから、「子どもにちゃんとしたものを食べさせたい」って気持ちは強かったですね。強迫観念もあったんですかねぇ…。子どもと一緒に朝晩の食卓を囲むのが、一番大事だと思っていました。

ーーどんな料理を作っていたんですか?

お魚を焼いたり、煮付けや煮物、ひじきのような常備菜だったり。自分が秋田の田舎で食べてきたものが多かったかなぁ。献立は、栄養第一で組み立てていましたね。ちょっと地味な食卓だったと思います。

ーー栄養を考えると、ある程度品数も必要になりそうですね。作り置きなどもされましたか?

お休みの日に、ひじきやナムルなどの3〜4日もちそうな常備菜は必ず作ってました。買い出しもある程度まとめて、その日作るものをイメージして片っ端から入れていくような感じ(笑)。数分でガーッてスーパーを回って、かごに大量に入れてレジに向かう買い方でしたね。

子どもたち二人ともお弁当があったから、朝から唐揚げを揚げることもあって。今思うと恐ろしいぐらい、一時期はすごく料理してました(笑)。

ーーいわゆる「ワンオペ育児」だったと思うんですが、それでも「もう嫌だ!」とならなかったのは何か理由があるんでしょうか?

まず、子どもがとってもかわいかったんです。それから、完全に自分の裁量で子育てできたことも大きかったです。夫は仕事が忙しくてあまり家にいなかったんですが、その分口出しもしないし。周りに私の子育てを見ている人がいないのは、とても楽でした。私の場合は、しっかりした夫と一緒に育児をして「こうした方がいいよ」って言われる方が、ストレスになっていたかも。

ーーなるほど、そこは本当に人それぞれですね。まだSNSがない頃だったのも、「見られている感」の少なさにつながっていそうです。

そうですね。だからこそ、ストレスがなかったんだと思います。料理も、毎日同じようなものを食べてましたしね。

ーーとはいえ、時間と体力には限りがあるもの。「今日はもう無理だ!」という日は、どんなごはんにしていましたか?

鍋にしたりしてたかなぁ。あとは、近所でお惣菜を買ってきたりもしてましたね。力を抜くところは抜く。料理や食事を大事にしてはいたけど、そこにがんじがらめにならないようにしていたと思います。

食事が「作らなきゃ」から「イベント」に

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ーー頑張ってきた料理に関して、「ちょっと一息つけたな」と感じたのはいつ頃でしたか?

二人の子どもが育って、家を出たり、バイト先でごはんを食べるようになったりして、家族みんなでごはんを食べることが少なくなってからですかね。私一人の時は、毎日簡単な食事をしてますよ。

ーー1年ほど前のインタビューでは、「食欲含め欲の低下を感じる」とも話されていました。

そういう時期もあったかも(笑)。多分、食卓にのせる料理やお弁当を作ってきた量が、自分の中の規定量を超えたんでしょうね。今は料理のお休み期間。ちゃんとした料理を何品も作ることは、ここ数年していません。

ーー最近のおうちごはんは、どんな感じなんでしょう?

夫がキャンプ好きで、家でキャンプ飯を作ったりしています。夫婦ともに芸人のヒロシさんのYouTubeを見ていて、紹介されているキャンプ用品は大抵持ってるんですよ(笑)。

先日息子が帰ってきた時は、ニトリの小さいホットプレートを使って、二人でチャーハンみたいなのを作って食べました。ごはん、お味噌汁、おかず…みたいな食事よりも、二人でスプーンでガツガツ食べる。こっちの方が、盛り上がって楽しいんです。

ーー一人で食べるおうちごはんの時は、いかがですか?

一人の時も、ホットプレートやスキレットとかで全部やっちゃいます。お肉を入れて、テレビを見ながらじっくり焼いたり。ホットプレート上で調理するより、ゆっくり待つ料理が多いですね。

子どもと一緒の時は野菜も入れるんですけど、一人の時は栄養もあまり考えずに、好きなものを食べてる感じですね。朝昼晩、甘いものだけ食べたり。一緒にポッドキャストをやっている(ジェーン・)スーちゃんには「筋肉が落ちる」って怒られます(笑)。

ーー栄養バランスが第一の料理から解放されて、今は「食べたいものを食べてやれー!」と自分の欲を優先しているところですかね?

そうですね。家族も見守ってくれています(笑)。

ーー「ちゃんと料理しなきゃ」という時期から抜けたことによって、料理や食事に対する感覚に何か変化はありましたか?

「ちゃんと子どもに食べさせなきゃ」という時期の料理は、あんまり色や味の記憶がないんですよね。作る時につまみ食いしてたり、作るのに疲れて残り物だけ食べたりしてたので。食事に自分も参加して、一緒に食べているという感じはあまりなかった。

今は、夫と休日の15時頃から、4時間ぐらい何か焼いたり食べたりしてて(笑)。楽しいというか、なんだろうなあ…。イベントになってるかもしれないです。

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ーースピーディーだった買い出しも、少し視点が変わりましたか?

時間がある今は、同じスーパー「オーケー」に行くのでも、ぐるぐる回って商品を選んだりします。「今日は絶対に惣菜コーナーには行かない」と思っても、結局行って、「やっぱピザ買うよね」って買って帰ってます(笑)。滞在時間も長くなりました。

ひとり飯は自己解放プログラム

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ーージェーン・スーさんとのポッドキャスト「OVER THE SUN」で、「ひとり飯は自己解放プログラム」とおっしゃっていたのが印象的でした。

もともと、ひとり飯に全く抵抗がないんですよ。時間が空いたら一人で「焼肉ライク」や「しゃぶ葉」に行くこともありますし。「鳥貴族」とかも一人で入ります。

一人だと、何もしゃべらなくていいし、食べたいものを好きなタイミングで食べられる。誰にも気を使わず、味に集中する自分だけの時間なので。もうなんか、マインドフルネスですよね(笑)。

ーーじゃあ、食べている間は考え事などはせず、味に向き合っているんでしょうか?

はい。ただ「おいしい」「なんでこんなにおいしいの?」ってひたすら食べて、気がついたら食べ終わってます。私「箱根そば」の「めかぶそば」が大好きなんですけど、この前カウンターで食べていたらおいしすぎて泣けてきました(笑)。

ーーおいしさのあまり涙!そして堀井さん、立ち食いそばにも行かれるんですね。お手頃価格な「オーケー」での買い物を楽しまれたりもしていて、親近感がわきます。

庶民的ですよ(笑)!私、目の前に畑があって、新鮮な土地のものを近所からしょっちゅうもらえるような田舎の出身なんです。

その時期に採れたものを、昔からのレシピで何日も続けて食べるような家庭だったので、お料理のバリエーションってあまりわかってなくて。多分「ごちそう」のハードルが、低いんだと思うんです。

ーーとはいえ、テレビ局のアナウンサーさんだと、業界の方とすごくおいしいものを食べる機会も多かったのでは…?

そうですね。いろんな華やかなところに連れて行っていただいて、業界の方たちと食事をすることが多かったです。そこにストレスは感じていなかったけれど、隙間時間には全然知らない人たちの中で、一人ごはんを食べに行くことも多くて。​​反動のようなものなんでしょうかね?家でも、しゃれたお料理はあまり作りませんでした。

思い出の味は「ぎばさ」や「だまこもち」

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ーー先ほど出身地の話が出ましたが、秋田の思い出の食材はありますか?

小さい頃は男鹿市という海の近くの市に住んでいたので、「ぎばさ」をよく食べてました。めかぶよりも繊維が細い、シュクシュクショコショコした感じの海藻で、お湯をかけるとすごくとろっとろになるんですよ。それがと〜ってもおいしくって。

ーー「アカモク」の別名なんですね。

今はブームになって高級料亭でも出されているそうなんですが、「そんなんぎばさじゃねえよ」って思ったこともあります(笑)。実家ではお醤油をかけて食べていました。

あとは、ふきやわらびのような山菜も、両親や親戚が採ったものを食べていましたね。こちらにも送ってもらっていたので、自分が母親になってからも、よく食卓に上がっていました。

ーーこの連載でお話を伺った秋田県出身の藤あや子さん高橋優さんは、地元の思い出料理として「なべっこ遠足」や「寒天」なども挙げられていました。

ああ!寒天もですし、鍋を担いで山に登って、みんなで鍋を作って食べて下りてくる「なべっこ遠足」は有名です。そういえば秋田だと、きりたんぽの派生バージョンのような「だまこもち」も定番ですね。

きりたんぽの筒にして焼く一手間を抜いて、もち米と新米をおにぎりみたいにただ丸めるんですよ。なべっこ遠足ではみんなで作りましたねー。

ーー今でも作ることがありますか?

もちろん。きりたんぽなんて冬になると10回以上食べますよ。昔は実家からきりたんぽを送ってもらうこともありましたが、今時はスーパーでも売ってますよね。

こだわりの味はない。でも、夫のお好み焼きがおいしい

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ーーポッドキャストでは以前、「ジョアはオレンジ派」「好きなヨーグルトはソフール」などの話もされていました。何か味へのこだわりはありますか?

「これが私の味」みたいなのは全然ないんです。ただね、夫のお好み焼き、本当においしいんですよ。

ーーわぁー、素敵ですね!

子育てが忙しい時、同じくTBSで働いていた夫は相当現場が忙しくって。2ヶ月海外ロケで不在にすることもあるぐらいだったので、食事を作るような人じゃなかったんですけど。40歳近くなってから料理を始めて、すっかりハマってて!今は、キャンプ飯もそうだけど、それ以外のお料理もすっごくおいしく作るんです。

日曜日とか、朝起きたら「今日は何作ろうかなー」「オーケー行く?」って会話をしたり、夫一人で買い出しに行っちゃったりして。「今日何するの?」って聞くと「俺、今日一日料理する」って返事があったり。料理するのが楽しいみたいで、味もどんどんおいしくなってるんです。

ーーパートナーが料理を始めたのと、堀井さんが料理のお休み期間に入ったのは、どちらが先だったんですか?役割分担の変化があったんでしょうか。

夫が料理に目覚めるのが先でしたね。自発的に料理している様子を見て、「あれ、私料理やんなくていいのかな」と思うようになりました(笑)。

ーーパートナーの料理がおいしい理由は、どこにあると思いますか?

昔は忙しかったのもあって、私はごはんを炊くのもある程度は目分量でしたが、夫はなんでもきっちり分量を測る人。だから毎回おんなじ味で、安定したおいしさなんだと思います。「すごいねえ」って言ってます。

ーー人がごはんを作ってくれる喜びってありますよね。食卓ではどんな会話をされていますか?

「え、うま!」「おいしい!」「うまくない!?️」って言いながら食べて、夫が「ですよねー」って。そこに豊潤な会話はないです(笑)。

ーー(笑)。堀井さんご夫婦はすごくいい形でパートナーシップが持続されているのかなと感じました。何か秘訣はあるんでしょうか。

一緒にいる時間が少ないからじゃないですか?はっはっは(笑)。彼は今も忙しくしていて、一緒に食事をするのも週に2〜3回。だからこそ、仲がいいんだと思います。毎日だったら、どうかな…(笑)。

ーー(笑)。最後に、堀井さんにとって、料理が仕事や価値観に与えた影響があれば教えてください。

えぇー、すごい質問。私そんなに繊細に料理を作ってないんだよねぇ。もう基本、目分量だし、レシピ見ないし、強火だし(笑)。豊かさとか彩りとか緻密さみたいなものを、あんまり求めてきてなかったんですよね。

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ーーそれでも、淡々と品数を作り続けてきたのはすごいと思います。

でも、すごく茶色というか(笑)、地味ーな食卓でしたよ。あれ、子どもにとってはおいしかったのかな。どうだったんでしょう。

ただ、今一人暮らししている娘は、すごく料理を頑張っていますね。出汁をとったり煮物を作ったり、今時なものというよりは栄養がありそうなものを作っているようです。「これ作ったよー」って写真を送ってくれます。

ーー料理をきっかけに、そういったやりとりも生まれているんですね。堀井さんが作ってきた食卓を、お子さんも受け継いでいるんでしょうか。今日はありがとうございました。

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取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
構成:佐々木優樹
撮影:飯本貴子

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