お菓子のオカシナ食べ方
食べものや飲みものにまつわるあたたかな記憶とその風景を、奥村まほさんの言葉で綴るエッセイ「晴れでも雨でも食べるのだ。」今回は、奥村さんが子どもの頃に熱中した、「お菓子のオカシナ食べ方」のお話です。みなさんにも子どもの頃にこだわった「オカシナ食べ方」、ありますか?
幼い頃、ちょっと変わったお菓子の食べ方をしていた人はいないだろうか。独特な食べ方をして、下品だと叱られた経験はないだろうか。
私にはある。何度もある。
おやつの時間は、真剣に遊ぶ時間でもあった。
あるある、と共感してもらえるかはわからないけれど、幼い頃に熱中したお菓子のオカシナ食べ方をいくつか紹介してみたい。
トッポ
カリッと香ばしいクッキーの中に、チョコがみっちり詰まったロッテのトッポ。
トッポといえば、「クッキーかじりとり選手権」に熱狂した記憶がある。
トッポを横向きにして、チョコの芯を噛まないようにちょっとずつちょっとずつクッキーだけをかじる。チョコが折れたところで、ものさしを使って長さを測る。
あまりにも地味な作業だが、私にとっては放課後の楽しみなイベントだった。ほんの少しのかじり方の違いが成功・不成功を決めるシビアな世界。職人技を極める時間だ。1秒たりとも気を抜けない。「またそんな食べ方して……」と母に諌められても、まったく耳に入らなかった。
参加者は私ひとり、ときどき妹を巻き込んで合計ふたり。私たち姉妹は、トッポを買ってもらうたびに自分の限界に挑戦した。ふたりとも、最終目標はチョコの芯を折らずに最後までクッキーを食べ切ることだった。
全神経を集中させ、トッポと、そして自分自身と闘った。
でも、悲しいかな。
トッポは5センチ足らずで折れてしまうのが常だった。きんきんに冷やしてチョコを硬くしても、7、8センチがやっと。クッキーをかじればかじるほどチョコも少しずつ欠けて細くなり、きれいな円柱がどんどん頼りない形になっていくのがもどかしかった。私たちは、それでも懲りずに挑戦し続けた。挑戦せずにはいられなかった。
今でもトッポを買うと、懐かしくなってクッキーだけをかじってみる。でも、いつも一本で飽きてやめてしまう。先日も3センチという中途半端な記録に終わり、残りのトッポは一気に食べた。
チョコの芯を残すことにあのころのような情熱は注げないし、何より、トッポはそのままパクリと食べたほうが断然おいしいと気づいてしまったのだ。
現実的な思考を手に入れた今では、一見何の得にもならないクッキーかじりに熱中していた自分がまぶしい。あのころの集中力、空から降ってこないかな。
ヨックモックのシガール
贈り物の定番、ヨックモックの「シガール」。
バターの風味と軽い食感、やさしい口溶けがたまらない筒状の焼き菓子だ。
おじさんとおばさんがヨックモックのお菓子セットを毎年のように贈ってくれたので、馴染み深いお菓子のひとつだった。
とはいえ、頻繁に食べられるわけではない。もったいないから、大事に大事に食べていた。
高貴な絨毯をくるくるとひろげるように、巻かれたクッキーを少しずつ剥がしていく。
これが、私流の食べ方だった。よくよく考えるとトッポの食べ方に似ている。はたから見れば大変お下品かもしれないけれど、私にとっては画期的な食べ方であり、誇りを持っていた。
でも実は、この食べ方には苦い思い出がある。
よその家でもクッキーを剥がしながら食べてしまい、親以外の大人から「このお菓子食べたことある?これはねえ、こうやって食べるんだよ」と「正しい」かじり方をレクチャーされたのだ。
小学2年生の私は、それくらいわかってるよ!私はあえてやってるの。私には私の信念があるの。子どもだからって馬鹿にしないで!と憤慨。
でも、さすがに口には出せず、心の中で叫びながら「あ、はい……」と言って勢いよくシガールにかぶりついた。明らかに不貞腐れた顔をしていたと思う。
私が何より悲しかったのは、その場にいた母に恥ずかしい思いをさせてしまったかもしれないことだった。母は私の食べ方を諌めてこなかったわけではない。私が何事も自分のやり方にこだわって耳を貸さないものだから、あきらめて好きにさせているだけなのだ。
自分流の食べ方は家でひっそりと楽しむものなのだと、私はそのとき理解した。
アンパンマングミ
愛と勇気だけが友だちの、アンパンマン。子どもたちに大人気のキャラクターだが、幼い私はアンパンマンそのものではなく、アンパンマングミがとにかく好きだった。
だってこれ、本当においしいの。ほかのグミにはない独特の、奥ゆかしい甘さがあるんです。
好きすぎて、大人になってからも職場で食べていたくらい。「奥村さん、これ、今日のお礼です」とアンパンマングミを同僚からプレゼントされたこともある。
そんな、大好きなアンパンマングミの食べ方はこう。
グミの表面についているオブラートのようなでんぷん膜を、きれいに剥がしてから食べる。
たったこれだけ。シンプルだ。
私にはどうやら、あらゆるものを分解したがる性質があったらしい。
しかしこれがまた、意外と難しい。グミとでんぷんの完全分離に成功したことは数えるほどしかないと思う。勢いに任せると簡単に破れてしまうし、逆にじわじわと時間をかけて剥がそうとしてみても、そう簡単には剥がれない。
最近もアンパンマングミを買って挑戦してみたが、まったくもってだめだった。最初の一手で破れてしまい、意気消沈。幼いころのような修行が必要だと悟ったが、わざわざ修行をしたいとも思えなかった。結局、でんぷん膜をつけたままパクパク食べた。
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あのころの自分や妹に会いに行き、一緒にお菓子を食べたらきっと楽しいだろうな、と時々思う。
会えたらまずひと言、すごいね!と褒めてあげたい。